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mess up;94;桂
電話を切った。
実家の、まだ残されている自分の部屋。ベッドに思いっきりうつ伏せで寝た。
なにをこんなに不安にさせてるんだろう俺は
確かに、指輪は着けてなかった……しかも規定とかじゃなくて、シンプルに着ける癖がついてなかったから。財布に入れて持ち歩いて、眺めて満足するだけ……自分が情けない。プレゼントしておいてなんのつもりだったんだ、
電話をしても、これ以上は信頼を取り戻すことはできないとはっきり感じた。「ショックだった、不安だ」って言われたとき、情けなくも涙が出た。
まだ嫌味ったらしく「ゆきちゃんと結婚したら?」って言われてる方が、なんとかなるって思えた。それでも言われた時は悲しかった。
もしかしたら俺と付き合うことは、そのさんにとって負担なのかもしれない。傷つけて、不安にさせて、こんなことならセフレとたまに会うくらいの方がまだよかったと、思ってたとしたら…?
……絶対無理。だめ。そのさんのことを手放させるわけない。
「どうしたらいいんだ……」
盛大な独り言を言うくらい、ダメージがあった。顔を枕に埋める…
動けないでいるうち、立て続けにスマホが音を立てた。のろのろと体を動かす。
『かつら!そのちゃんになにした?』
『もうだめだと思うとか言ってる』
『電話できる?話した方がいいよ』
電話したんだよ環…
『今電話していい?するね』
着信、環から
「…もしもし」
『桂?ソノちゃんすごい泣いてるんだけど』
「電話したんだよ、さっき」
『それで泣いてるの?』
「そうだね…そのさんのこと、こんなに不安にさせてたって知らなかったんだよ俺」
『……ゆきちゃんのことか』
「そう…」
『彼女、ソノちゃんの目の前で、諦めてないし、なんかあったら環くん協力してね!ってわたしに向けて言ったんだよね……カラオケ行って、うおーー!って歌って、それからはなんもないみたいに振る舞ってたけど、やっぱりつらかったんだきっと…なんでわたし、気にかけてあげられなかったんだろう…』
「いや、俺が悪いんだ。指輪、つけ忘れてて、ずっと…」
『ソノちゃんとお揃いの?』
「そう…」
『ソノちゃん、意外とそういうとこ気にしちゃうよね…そんな素振りは一切見せないけど』
「…今、そのさんどうしてる?」
『今、ドライブ行こうって車にいて…わたしと都くんが遅れて車行ったときにはシート倒してごろんってしながら目元押さえてて、寝てるのかなあと思ったらぼろぼろ涙が出てて…わたしは一旦ティッシュとハンカチを取りに部屋に戻ってるとこ。都くんがソノちゃんといてくれてるよ』
「……そんな泣いてたんだ」
『びしょびしょだった!桂、ゆきちゃんとは何もないんだよね?』
「ないよ!」
『はっきり断ってるんだもんね?』
「…そのつもりだけど」
『もう一回はっきり言ったら?だめだよあの子、気配ないとか言ってさ…あわよくば、みたいなとこあるもん。ジムの方はお客さんだし仕方ないかもだけど。連絡先は?』
「知らない」
『じゃあ、竹井を介してはっきり言うしかないね。わたしも竹井に今度言うね。ほんと一発叩かなきゃ気が済まない…』
「そのさん、大丈夫かな」
『んーーーー……とりあえず都くんとわたしがいるし、なんかこう、楽しく過ごせるようにやってみる!年越しだしね!こんな時に言うあれじゃないけど、良いお年を……全然そんな気分になれないー!とにかく、また帰ってきて会えそうになったら教えてね!』
「分かった」
『じゃあ、また来年』
大の字に寝転んで目を閉じた。
そのさんのことを頭に浮かべた。
目を見開いて怒ったり、細めて擦り寄ってきたり、本当にかわいい…猫みたいに、素直に抱っこさせてはくれない。だけど自分から腕の中に入ってくることだってある…
『…ゆきちゃんって子と飲んだら、楽しかったんじゃないのって、思って…ちょっとだけ』
………そうだ、言ってた
そのさん、電話で言ってたんだ!
不安そうな声だった。
自分の鈍さにうんざりする。
体を起こした。そのさんのところに行こう。だめだ、のんびりしてる場合じゃない。
荷造りしてリビングに行った。
両親に急遽戻ると伝えたら、は?って言われて謝り倒した。明日会うはずだった妹夫婦と甥っ子のために持ってきていた菓子折りとお年玉を託して、家を出た。
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