99 / 120
mess up;99;都
「はあああ…」
環はどさっとソファーに座った。
「大丈夫かなあ…気が気じゃないよ…」
「分かる。ソノも意地っ張りそうだもんね」
「も?」
「うん、ソノも環も。似てるよね」
あからさまにムスッとしてる。
「かわいすぎ」
「そんなこと言ったってだめだよ」
「そこも込みで大好きなんだもん」
隣に座って、すぐにキスした。
唇が離れて顔を見たらにこにこしてる。かわいすぎ。
「ふたり、ずっと外で話してるのかなあ?」
「戻ってきたら話しにくいか…でも寒そうすぎる」
「ね…早く帰ってきたらいいけど」
「あ、年越し蕎麦買ってきとけばよかった」
「あると思うよ、お蕎麦。作ろっか」
環は立ち上がってキッチンに行くと、慣れた様子で作り始めた。
なんか、すごいいい感じじゃん今。なにこの雰囲気!
俺もすぐキッチンに行って、環の隣に立った。
「ん?」
「手伝いたい」
「いいの?じゃあ…そこの引き出しから大きいお鍋取ってくれる?」
隣で手伝いながら、これほんとすげえ幸せじゃんって思った。だって、卒業式のときに一緒に写真撮ってもらえたらいいんだ…くらいの感じだったのに、こんな、大晦日に隣でごはん作ってる。信じられる?憧れの夏目先生だよ?大丈夫なの俺…!
「ふふ、どうしたの?ぼんやりしてる!疲れた?あ、ホームシックかなあ?」
「幸せすぎてばかになってんの、今」
「えー?なにそれ!」
くすくす笑われて、それさえも幸せじゃんみたいな!
「俺、今死んでもいい」
「だめだよ!都くんがいなきゃ、……そばにいてくれないと、さみしい。いなくなっちゃうとか、想像しただけで苦しくなる…ってくらい、なのに」
環は持ってたネギと包丁を置いて、抱きしめてくれた。すぐに抱きしめ返す。
背中を手のひらでさすった。
「つい最近まで、こんなのだめだって思ってたのに」
「ほんとだね。先生と生徒だし」
「そうだよ!」
「学校始まったらどうしよう…」
「学校ではそばにいなくても大丈夫なように気合い入れて働くから」
「渡辺君って呼ばれるだけで、結構さみしいんだよね」
「えー?へへ、わたしは夏目先生って呼ばれるのも好きだけどなあ。あ!前の期末、すごかったね!ノーミスだなんてなかなかないよ!」
「へへ、頑張った甲斐があった」
「えらいえらい!」
「そうだ、シャーペンもありがとう!言いそびれてた」
「わたしも同じの買っちゃった」
「お揃いで使えるね!」
環の体が離れた。
それからお蕎麦茹でなきゃって小さく呟いて、いつの間にか沸騰してた鍋に蕎麦を入れた。
「あのシャーペン刻印してもらうとき、彼女さんへのプレゼントですかって言われたんだー」
鍋を見つめたままくすくす、環は笑った。
「やっぱり男なんだなーって、しみじみしちゃった!」
俺には想像すら難しいことだから、なんて言うのが正しいか分からなくて、ただ横顔を見つめることしかできない。
でも俺は確実に環のことが好きで、ただそれだけ。
「環のやつ、ほしい」
「えー?」
「交換しようよ」
環は不思議そうに笑った。
「環」
「んー?」
「俺、環が好きだよ」
「へへ、嬉しい」
「ハグする」
「あ、お蕎麦柔らかくなりすぎちゃう。ざるにあけてから」
「俺がやるよ!」
「ありがとう」
にこっ、て笑いかけられる。
もくもく上がる湯気にふたりで笑って、宣言通りにハグをした。
ともだちにシェアしよう!

