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「はあああ…」 環はどさっとソファーに座った。 「大丈夫かなあ…気が気じゃないよ…」 「分かる。ソノも意地っ張りそうだもんね」 「も?」 「うん、ソノも環も。似てるよね」 あからさまにムスッとしてる。 「かわいすぎ」 「そんなこと言ったってだめだよ」 「そこも込みで大好きなんだもん」 隣に座って、すぐにキスした。 唇が離れて顔を見たらにこにこしてる。かわいすぎ。 「ふたり、ずっと外で話してるのかなあ?」 「戻ってきたら話しにくいか…でも寒そうすぎる」 「ね…早く帰ってきたらいいけど」 「あ、年越し蕎麦買ってきとけばよかった」 「あると思うよ、お蕎麦。作ろっか」 環は立ち上がってキッチンに行くと、慣れた様子で作り始めた。 なんか、すごいいい感じじゃん今。なにこの雰囲気! 俺もすぐキッチンに行って、環の隣に立った。 「ん?」 「手伝いたい」 「いいの?じゃあ…そこの引き出しから大きいお鍋取ってくれる?」 隣で手伝いながら、これほんとすげえ幸せじゃんって思った。だって、卒業式のときに一緒に写真撮ってもらえたらいいんだ…くらいの感じだったのに、こんな、大晦日に隣でごはん作ってる。信じられる?憧れの夏目先生だよ?大丈夫なの俺…! 「ふふ、どうしたの?ぼんやりしてる!疲れた?あ、ホームシックかなあ?」 「幸せすぎてばかになってんの、今」 「えー?なにそれ!」 くすくす笑われて、それさえも幸せじゃんみたいな! 「俺、今死んでもいい」 「だめだよ!都くんがいなきゃ、……そばにいてくれないと、さみしい。いなくなっちゃうとか、想像しただけで苦しくなる…ってくらい、なのに」 環は持ってたネギと包丁を置いて、抱きしめてくれた。すぐに抱きしめ返す。 背中を手のひらでさすった。 「つい最近まで、こんなのだめだって思ってたのに」 「ほんとだね。先生と生徒だし」 「そうだよ!」 「学校始まったらどうしよう…」 「学校ではそばにいなくても大丈夫なように気合い入れて働くから」 「渡辺君って呼ばれるだけで、結構さみしいんだよね」 「えー?へへ、わたしは夏目先生って呼ばれるのも好きだけどなあ。あ!前の期末、すごかったね!ノーミスだなんてなかなかないよ!」 「へへ、頑張った甲斐があった」 「えらいえらい!」 「そうだ、シャーペンもありがとう!言いそびれてた」 「わたしも同じの買っちゃった」 「お揃いで使えるね!」 環の体が離れた。 それからお蕎麦茹でなきゃって小さく呟いて、いつの間にか沸騰してた鍋に蕎麦を入れた。 「あのシャーペン刻印してもらうとき、彼女さんへのプレゼントですかって言われたんだー」 鍋を見つめたままくすくす、環は笑った。 「やっぱり男なんだなーって、しみじみしちゃった!」 俺には想像すら難しいことだから、なんて言うのが正しいか分からなくて、ただ横顔を見つめることしかできない。 でも俺は確実に環のことが好きで、ただそれだけ。 「環のやつ、ほしい」 「えー?」 「交換しようよ」 環は不思議そうに笑った。 「環」 「んー?」 「俺、環が好きだよ」 「へへ、嬉しい」 「ハグする」 「あ、お蕎麦柔らかくなりすぎちゃう。ざるにあけてから」 「俺がやるよ!」 「ありがとう」 にこっ、て笑いかけられる。 もくもく上がる湯気にふたりで笑って、宣言通りにハグをした。

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