101 / 120
mess up;101;苑
ハンドルを握る桂を初めて見た。
運転してほしいとお願いしたのは俺で、疲れてたからっていうのもあるけど、それよりも桂を見ていたかったから、っていうのが大きい。
ちらちら横顔を見つめては、やっぱり俺は桂が好きだっていう純粋な感情と、まだ(まだ?)好きでいてもらえているんだって安堵感と、桂の幸せを奪っているんじゃないか?っていう拭いきれない疑念とで、頭がくらくらする。
「どこまで行く?あれかな、なんかコンビニで甘いものでも買って帰る?環と都と食べられるように」
時計を見た。9時半。
「……まだ戻りたくない」
「え、どうしたのそのさん」
「ほら、ふたりどうなってるか分かんないし」
「環たち?」
「うん」
「どうなってるって…まさかまたケンカしてるとかじゃないよね…」
「真逆」
「真逆?なにそれ」
「やってるかもじゃん」
「やっ……!!」
目が合った。
なんちゅう顔してるんだ…
「前!前見て!」
「ああっ、……え、…ちょっと…ショックなんですけど」
「まあ、血気盛んな高校生とテンション上がった恋愛未経験者だから、分からなくもないじゃん…親御さんのことを思うとすごい罪悪感だけど…」
「都はさ、既に彼女いたことありそうだよね?」
「そうだっけな…?聞いたことあるようなないような…聞いたのに忘れてるのかも…」
「でも逆になんかほら、ちょっと安心だね」
「なにが?」
「高校生にしてもさ、経験のある子だったらうまくこう、スッとエスコートしてもらえそうみたいな」
「耐えきれなくなったって言ってたから、エスコートする余裕がある感じではないんじゃない?」
「耐えきれ……、事故りそう」
「怖いよ」
桂の横顔を見た。
桂も彼女いたんだもんな、と、ふと思った。
いつ終わりが来るか分からない
その不安がきれいになくなることって、きっとないと思う。桂と付き合うということはそういうことだ。それを受け入れなきゃいけない。
「そのさん、また変なこと考えてるでしょ」
「変じゃない、」
信号待ち、頭を撫でられた。
「何考えてた?」
「…んん……」
「正直に」
「…桂にも、彼女いたんだなって、思った」
「なんで!?なんでそんなこと急に思うの」
「分かんないけど」
「知りたければ全部話すよ。でもこれだけは分かって?俺と苑はこれからたくさん重ねるじゃん、時間を。だから、それを信じてほしい。過去は過去で大切だけど、過去の出来事に引っ張られて辛い気持ちになるのは、はっきり言って、よくないと思う」
車が動き出す。
「苑のことが好きだよ」
「…ありがとう」
「……俺も同じことを考えられるわけじゃん」
「ん?」
「そのさんは、俺が女の子を好きになる可能性があるって思うわけでしょ?俺だって、そのさんがいつ他の人を好きになるか分からないって不安がゼロなわけじゃないよ?そのさんは可愛らしいし、美人だし。いつセフレだった人が恋心抱いて連絡してくるか分かんないわけじゃん」
「いやー、そんなんされないよ」
「分かんないよ?苑は魅力的なんだから。スパッと諦めつくと思う?連絡してくるかもしれない」
「でもそんなことされても別に靡かない」
「でしょ?同じ」
小さく息を飲んだ。
「俺も、誰に何言われても靡かない」
「……そっか」
「そうだよ」
すとん、って
これが腑に落ちたってことだなって思った。
「もし不安になったら何回でも伝えるから。安心して」
「うん、そうする」
桂の左手が俺の右手を握った。
ともだちにシェアしよう!