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mess up;102;桂
「おかえりーー!!」
環と都は盛大に迎え入れてくれた。
ふたりともルームウェアを着て、完全にリラックスした雰囲気。
「よかった、ふたりで帰ってきて」
環はそう言いながら、にこにこ笑ってそのさんの肩をばしばし叩いた。
「ごめん、気遣わせちゃったね」
「全然平気」
「もうご飯食べた?」
「うん!お蕎麦食べた」
ふたりは話しながらキッチンに向かう。
「桂先生」
「都、ありがとうね」
「こちらこそだよ。先生たちが帰ってくんの遅かったから、だいぶゆっくり過ごせたし」
そのさんの読み、当たってたんだな…
「素直によかったと思えない自分がいる」
「なんで!?」
「だってさあ…」
「先生先生、聞きたいことがいろいろあるんだ」
「なによ」
「ちょっとこっち」
キッチンにいるふたりを横目に、都は俺の腕をひっぱりながらソファーに座った。俺もひかれたまま隣に座る。
「えっちするのって、どうしたらいい?」
「!?」
ひそひそ声でそんなこと聞いてくる…
「え、なにを聞く事ある?経験者でしょ?」
「環が初めて」
「まじかよ…なんで?」
「なんでってなに?」
「高校生にして指折り数えるほどの経験がある…くらいの雰囲気あるじゃん、都」
ばしっ!と肩を叩かれた。
「ないから」
「ごめん」
「具体的にどうしてるの?ソノと」
「具体的って…」
「体の作り的にどうなるのが正解なのか、どこをどうしたらいいのか、そのプロセスとか、っていうかそもそもセックスとは感情の問題なのか?とか、いろんな疑問が湧いて止まらなくなってるんだよ、今」
「今?」
「うん、今」
「なに、欲求不満なの?」
「だからなのかな、こんなこととりとめなく思っちゃうとか」
「でも、したんでしょ?」
「……うん…した、と言っていいのかは分からないけど…」
「…喧嘩した?」
「してない」
「普通に楽しかったんでしょ?幸せだーって思ったんじゃないの?」
「俺だけがそう思ってるかもしれない、って思うんだもん」
「なんで?あんな機嫌よく笑ってんのに?」
「うん…ソノが帰ってきたからじゃん?」
「え、そのさんが来る前は怒ってたの?」
「怒ってたっていうか…ぼーっとしてた」
「満たされて脱力してたんじゃないの?」
「……えー…?」
「そうだよきっと。深く考えすぎない方が」
「でも知りたい。…欲求不満、」
「あ、引っ掛からなくていいから!気にしない気にしない」
都はソファーに沈み込むように座って、唇を噛んだ。
「…あれだけ好きにして欲求不満とか、俺最低じゃん」
「なにしたの」
食い気味に聞いてしまった。
「やりたいようにした。呆れられたかも」
キッチンの方を振り返ると、なにやら楽しそうにふたりで笑っている。
「呆れてたら、今あんなに楽しげにしてないって」
「ソノと環」
「はあ」
「俺と環……違うじゃん」
「そりゃそうだけどさ。でも呆れるとかじゃないって。もうやめな、ほら、煩悩は捨てなさい」
「……俺だけ年越せない…」
「なにそれ」
はーーーー、って深すぎるため息をついて、都は更にだらりと脱力した。
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