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neeedyyy;107;環

都くんのことが好きだ。 お正月を一緒に過ごして、ずっと一緒にいたいって気持ちでいっぱいになった。都くんの優しさとか愛情にずっと溺れていたい。 学校が始まって『渡辺君』って頭で呼んで…気持ちを切り替えて勤務した。 わたしは先生で、渡辺君は生徒。 だけど、授業中に目が合ったらにこってされたりして、そういう時はほっぺが緩んでしまいそうで危なかった。ああ、わたしはやっぱり都くんが好きだ、そう思った。 月曜日。 授業が終わって、教卓で教科書とかプリントとかをまとめてたら、何人か集まって楽しそうに話してる中に、渡辺君がいた。 あんまりじろじろ見ないようにしなきゃ、って思ったけど、手を動かしながらちらちら見てしまう。 なんの話をしてるのかは分からない。だけど、女の子に腕を組まれて、なんならその腕には胸だって触れてしまっていて、わたしは思わず俯いてしまった。そしたら自分の真っ平な胸元が見える。この気分を言葉にするのは難しい。 渡辺君はもうすぐ卒業。 友達と仲良くするのって青春だ。いいことじゃん、って思うのに、やっぱり少し苦い。 その日はたまたまテニス部が休みで、竹井と上がりが同じになったから駅まで一緒に帰った。 「あ、あれ3年じゃない?」 指差した先には7,8人くらい制服の子がいて、その中に渡辺君もいた。 女の子に差し出された手を握って、いわゆる恋人繋ぎをしてるところを見てしまった。 顔を見合わせてにこにこしてるように見える。 いまどきの子は誰とでもそうやってするのかな?そうなのかも。だからこんなことでもやもやしてる自分がおかしいんだきっと。 「いいねー、青春」 「…そうだね」 「あーあ、俺も彼女ほしい。手ぇ繋いでデートしたいー」 「すればいいじゃん」 「彼女いないし」 「ゆきちゃんと付き合いなよ」 「ゆきちゃんは友達だし」 「へー」 「なにその乾いた返事!ちょっともー、やだわー!」 竹井に手を握られた。 「なに!やめてよ」 「恋人繋ぎしよ」 「なんでよ!」 「ほら、してるじゃんあれ、超優等生渡辺」 またそっちを見てしまう。 「結局よっしーと付き合ったんじゃん」 よっしー…!吉崎さんだからか… 吉崎さんは、渡辺君と同じクラスの女の子だ。 「…なに、竹井は渡辺君と友達なの?」 「いや?なんか女子軍団によく絡まれて、恋愛話を聞かされるからそこからの情報」 「竹井、何者なの」 「なんだろね。なんか喋りやすいんじゃん?よっしー、渡辺と中学から一緒なんだって。で、ずーーっと好きなわけよ。でも全然上手くいかなくて悩んでたわけ。はー!バレンタイン前に成就したんならよかったじゃんねー!青春〜」 握った手をぶんぶん振られて、引っ張られるみたいに歩いた。 「声かけんのもあれだし、遠くから見つめとこ」 成就したんならよかった そうなんだ、じゃあ、お正月はなんだったんだろう?夢でも見てたのかな 「夏目?」 「…ん?」 「大丈夫?」 「うん、大丈夫」 大丈夫なわけなかった。 それから、目も合わせられないし、来る連絡にうまく返すこともできなくなった。

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