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neeedyyy;118;苑

「ただいまー」 「おかえり」 ソファーに座っている環の後ろ姿が見えた。 テレビがついてる。 ……よかった… もっとなんていうか、ぐずぐずになってるんじゃないかって思ってたから… 「ソノちゃん」 「なに?」 隣に座って、横顔を見た。 完全に泣き腫らした顔だった。生気を失ってる。全然よくなかった。 「セフレってどうやってつくるの」 ……なんか変なこと言い出した 「なに、欲求不満なの?」 「全部忘れたいだけだよ。なかったことにしたい。だけどできないでしょ?だから、忘れてしまえるようなことをしたい」 「セフレ作っても忘れられるか微妙なとこだと思うけどね…なんかもっと、あー…運動するとか、あれは?絶叫マシン乗るとか、バンジージャンプとか」 「そういうのじゃなくて、したいなって気分になったら、きっと渡辺君のことが思い浮かんでしまう。経験がないから。だから、知らない人としたい。めちゃくちゃにされて、記憶を塗り替えたい。どうされてもいい。どんな人でもいい」 自暴自棄… 「幸せだーって思えるようにはできないと思うよ。割り切って、ただ出せたらいいやって感じだったらあれだけど」 「…いいのかも、それでも」 「えー?まあ…環がそうなら、アプリとかで探してみたらいいんじゃない…」 「………うう…」 環の顔が歪んだ。 逆に歪んでよかったー…と思ってしまった。 「とめてよ」 「ややこしいなあ」 「ややこしいよね」 「素直になればいいものを」 「……次がもしあったら、そのときは素直になるよ」 「初手が都でしょ?次の人はハードル高いね。お眼鏡にかなう人はなかなか見つからないと思うけど」 「…そうだね………だから忘れたいんだろうな。なかったことになればいいけどそんなの無理だし。しかもまだあと1ヶ月くらい学校で会うよね」 「ねー」 「……ソノちゃん、楽しんでない?」 「楽しんでないから!思ったよりへこんでなくて、ちょっとホッとしてる。もっと死にかけてるんじゃないかなーって思ってた」 「死にかけ…落ちるとこまで落ちすぎて、逆に突き抜けた感じする」 「なにそれ」 「うわあーーーって落ちまくったら反対側着いたの、ブラジル」 「そっか、それは踊るしかないね」 「楽しそうだよね、カーニバル」 「いつかまとまった休み取って行ってみたいね」 「へへ、貯金しなきゃ」 「都はそこまで行けなかったみたいだよ」 「…どういう意味?」 「突き抜ける途中のマグマ溜まりみたいなとこで止まったんだろうね」 「……なにそれ」 「死にたいとか書いてたわ」 環は目を見開いて、息を思い切り吸って止まった。 「なんで、」 「好きだったからに決まってるじゃん」 「そんな、そこまでじゃなかったでしょ、」 「そこまで好きだったでしょ、どう見ても。竹井先生のウザ絡みに本気になってあんな怒鳴ってさ」 「でも女の子の方が良さそうだったじゃん」 「本当にそう思ってる?良さそうにしてるなーって思った?だめだとは思うよ。だって環がいるのに、そんな誤解招くようなことするなんて。だけど想像してみて?」 環は眉間に皺を寄せて、唇を固く結ぶ。 「中学生の頃からずっと都が好き、って女の子が周りに相談しまくっててさ、もう春からは離れ離れになる。相談されてる側の友達だったらさ、一回くらいチャンスあってもいいじゃん、なんとかしてやろうよ!みたいな感じになってもおかしくないよね。都はそういうの足蹴にしないでしょ?それも想像つくじゃん。みんなで遊びに行くってことなら、まあ、ちょっとくらい…そういう感じだったんだと思うよ。まさか環に見られてるとは思わなかっただろうしさ」 顔を覆って、環は小さくうずくまった。 「負けたーって、思ってしまった、から」 「なにが、なにに」 「その子に…その子が教室で都くんの腕を組んでるの見た時点でもう、ああ、無理だって」 「あー、胸が当たってた、みたいなやつ?」 「…うん」 「都としたんでしょ散々!なにを今更」 「ずっと悶々とし続けることになるんだ、って思った……何かあるたびにきっと、体のこと考えて」 「相手変わったら、思わなくなるの?」 「……分かんない」 「…まあ……そうか…そうだよね」 都が諦めたのは、ここのポイントだったんだろうことを、なんとなく理解した。 どうすることもできない。 これは環の問題で、どう足掻いても覆らない。そう判断したんだろう。 環とはいろいろな話をしてきた。 手術で体を女性に近づけることもできるし、書類上でも手続きをすることはできる。 だけど、環はそれができなかった。 家の環境が主な理由だけど、そこに反抗してまで踏み切ることは、たしかに難しい状況だった。だから余計に、俺は環のことを守りたいと思ったし、俺の前では包み隠さずいられるようにしたい、そう思った。 都だってそうだったと思う。 性別は関係ない、環のことが好きなんだ、そう思っていたと思う。 だけどそれでも無理だと思うなら、もうそれは仕方ない。 「ドライブ行こっか」 「……、」 「なに、しょげしょげじゃん」 「…自分のこと、嫌い」 「俺は環のこと大好き」 唇が歪んで、すぐに泣きそうな顔をする。 抱きしめたら案の定わんわん泣いて、すぐに俺のシャツの首元がびしょびしょになる。 「都くん、冗談だよね」 「死にたい?」 「うん」 「桂がそばにいるはずだから、大丈夫」 環は涙が枯れるんじゃないかって思うくらい泣いた。

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