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neeedyyy;120;環
シャーペンと指輪を、封筒に入れた。
映画のパンフレットとキーホルダーは、さすがにそこまで返すと嫌味になるかもと思って、そのままにした。だけど、キーホルダーは鍵から外して、引き出しに入れた。
授業の時にシャーペンを教卓に置かれて、付箋に書かれた文字を見たら、授業をやるにあたってかなり強く持っていたはずの緊張感が一瞬で崩れた。
名前を呼んで顔を見ても耐えられたのに、泣きそうになった。
次の子がふざけてくれなかったら、絶望的な状況になってたかもしれない。
ペンと指輪の入った封筒を持って、ソノちゃんの家に行った。平日だけど、泊まるつもりで。
「もうさあ、当分うちにいたら?」
「いいの?」
「いいよ。わざわざ一旦帰ってとか面倒くさいじゃん。明日仕事着のストックだけ持っといで」
「うん、ありがとう」
ご飯を食べ終えて、洗い物も終えて、それからお茶を淹れて、ローテーブルに持って行った。
ソファーでスマホを触るソノちゃんの隣に座った。
「環聞いた?」
「なにを?」
「桂から」
「桂?今日は会わずに帰っちゃった」
「…ふふ、おもしろいことになった」
「えー?なに?」
「土曜日さあ、遂にモデルになったらしいよ」
「モデル?」
「都の、ヌードデッサンのモデル」
口からお茶をこぼしてしまった。
「しかも、春休みにがっつり1日モデルをすることになったらしい!あはは、いいなあ都。逆手にとったんだ」
ソノちゃんはスマホを手渡してきた。
画面を見たら、絵が写っている。か、桂だ
「真っ赤じゃん」
「み、見たことないしっ、桂の」
「たしかにそうか。桂、今までは全力でモデルをお断りしてたけど、今回ばかりは断れなかったみたい。でも、やってみたら別にどうってことないし、まあ断る理由もないかーって」
「そうなんだ、」
「俺も描かれたことあるんだよね」
「え?」
「風呂入ったときに」
「え、え?なに、ソノちゃん、?」
ソノちゃんは唇の端を引き上げて、不敵な笑みを浮かべた…
「たしかその時もさあ、別れるだ別れないだで傷心だったんだよ、都。それでうちに泊まりに来て、まあ一緒にお風呂入るってことになり、ついでに描かせろって言われて自由に描いて、で風呂を満喫して、挙句一緒に寝た」
「な……そ、そんなの、知らなかった」
「傷心をヌードデッサンで癒す癖でもあんのかあいつは」
「え、そ、ソノちゃんは、み、都くんとも、そういう、」
自分でも引くぐらいしどろもどろだ…
「ないない。そんなんじゃないよ。でも、都にとって拠り所になるなら、別に大したことないなって思えるようになっちゃったかな」
「…そっか、」
「都、指輪外してたでしょ」
「あ、…」
そういえば着けてなかった。
「保健室来た時に、外したの?って聞いたら、ネックレスにつけてるって言ってたよ」
「そうなんだ、」
ソファーから立ち上がって、封筒を持ってきた。
「なにこれ」
「シャーペンと指輪…これ、返しておいてもらえるかな、渡辺君に」
「え、シャーペンって環があげたんじゃないの?」
「そうなんだけど、お互いの名前のに交換してたんだ。渡辺君、今日の授業のときに返そうとしてくれたんだけど、なんか、泣きそうかもと思って…だから、受け取れなかった」
思い出して、少し涙が出た。
「でも、そうだ、返した方がいいよなって思って…だって、みやこ、って書いてるんだよ、ペンに…それに、指輪も…わたしのサイズで、しかも作ってくれたけど…でも、それをずっとわたしが持ってたら、いやじゃないかなって、思って…」
「……んー…まあ、環がそうするって決めたなら、渡すけど」
「お願い」
「本当にいいの?」
「うん、」
ソノちゃんは、長い間わたしの目を見て離さなかった。
「じゃあ、預かる」
やっぱり胸が苦しくなった。
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