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neeedyyy;123;環
渡辺君の家の最寄駅で降りた。
ふたりで飲食店に入る勇気も出なくて、少し歩いたところにある公園の、ベンチに座った。
20時、暗いし寒いし、誰もいない。
ここまで来る間に、いろんな考えがぐるぐる回った。どうするのがいいのか全然分からなかった。
結構答えは見つからないまま
隣を見たら、長い髪が邪魔をして顔が見えない。
「来る間に考えたんだけど……先生が俺といることで嫌な気持ちになるなら別れるしかない…そう思ったから、そうした。もう俺のことを好きだとも思ってないだろうし、むしろ嫌いだって思うならどうしようもないじゃん、って」
渡辺君は髪を耳に掛けた。横顔が見える。
「今も死ぬほど好きだけど、それって環のこと傷つけてるんだよね?俺じゃないだれかと…しようって、思うんだもんね。ペンも指輪も、もう、要らないし、」
内臓がえぐられる、
そう思うくらい、苦しい
もう一度、つらい、かなしい別れ話をするためにこんな暗くて寒い公園に来た?
違う。
「都くん」
立ち上がって、都くんの前に
それからしゃがんで、顔を見上げた。
情けなくても、恥ずかしくても、言葉にしなきゃだめだ。別れるとかこっちから言っておきながら未練がましい、そんなの分かってる。
そんなの分かってるけど、でも、
「わたしは都くんのことが好き」
脈打つ音が頭の中に響き渡ってる。こんな緊張したことなんてないかもって思うくらい、
少し手が震えてる。からだがあつい。
「すごくすごくかっこいいから、ずっとこの先も、些細なことで嫉妬ばっかりするかもしれない…だって、都くんのこと好きになる人はたくさんいるし…そう思って、ぐずぐずして、性別のことだってそう、…ずっと多分、ごちゃごちゃ言い続けてしまうかもしれない……けど、」
膝の上に置かれた手に向かって、手を伸ばした。やっぱり震えてる。心臓が口から出そう。
都くんの手を握った。
「冷たい、」
「…先生はあったかい」
「緊張してるから、」
「俺も、心臓ばくばくしてる」
目を見た。
「先生、俺、」
「だ、だめ!」
「え?」
「最後まで言わせて」
手を握る指先に力がこもる。
「もう一度、付き合ってください」
都くんの目が、表情が柔らかくなっていく。
よかった、
全身の力が抜けてしまいそうな感覚になる。
「俺は重たすぎる愛情をかけたいし、かけられたい。俺は環のためなら死ねるよ。それくらい重い。それでもいい?」
目線が絡まる。
「前よりもっとやばくなってるよ、俺。耐えられる?」
小さく頷いた。
「これからは環が不安になりそうなときは、いかに俺が環を愛してるか分からせてあげる」
かっこよすぎる、
「ねえ環、写真撮らせて」
スマホを向けられて、すぐシャッター音が鳴った。何回も、
「可愛い」
「なんで写真…?」
「消しちゃってたから今すぐ欲しかった。環」
手を掴んで引っ張り上げられた。
立ち上がったのは同時で、抱きしめられた。
「こんな思いは二度としたくない!」
「ごめんね、」
「環のことを差し置いて、他の誰かを好きになることはない。分かった?」
「うん、」
「女とか男とか関係ない」
体が少し離れて、顔を覗き込まれた。
「……まだちょっと信用してないでしょ」
「信用とかじゃなくて、ほら…もてるから…」
そうか、今まで弱音とか、嫌だなって思ってることをちゃんとさらけ出せてなかったんだ、
「環?」
「こんなにかっこいいんだよ?それはもう今後もずっともて続けるし、色仕掛けとかされちゃうんだよっ!からだをぎゅーって押し付けられたり、お酒飲める歳になったら、酔っ払ってホテルに引っ張り込まれたりするかもしれないんだよ!……どうしよう」
「お酒か…それは考えた事なかったな……俺、飲んだらどうなるんだろう」
「初めてのお酒は、お父さんとお母さんと飲んでね」
「なんで!そこは環とじゃん!」
両手が繋がった。
「環と飲む。おいしかったらいっぱい飲んで、それでどうなるか試してみる」
「うん、」
「好きだよ」
「ん、」
唇が唇に、
触れ合うたびに音がよく耳に入った。
息つぎするのを逃してしまいそうになるくらい、都くんは離してくれない。
長くキスをして、離れた時には真っ白い息が広がった。
「分かってね、俺はこんなに環が好きだから」
「んん、わかった」
「もう絶対に離れない。指輪着けといて」
都くんはごそごそ、ポケットから指輪を2つ取り出した。
「死んでも離れない」
「え?」
左手の薬指に、指輪が帰ってきた。
「この指輪の意味。蔦がモチーフ」
「おー…」
「作ってた時は正直そこまで重い感情なかったけど、今は重いよ。ずっと愛してる」
体が熱くなってきた、
汗かいてるかもしれない…
「環、俺のこと好きって言ってくれる?」
「大好きだよ」
強く強く抱きしめられた。
腕を背中に回したいって思って体を捩ってみても、腕が抜けない…
「ん…ちょっとだけ緩めて、」
「いや」
「わたしもハグしたい!」
「もうちょいこのままさせて」
耳元に唇が触れた。
「よかった…戻ってきてくれて本当によかった…」
そう囁かれたら急に涙が出そうになって、都くんの肩に目元を押し付けた。鼻を啜ったら頭を撫でられて、やっとわたしは都くんの体を強く抱きしめ返すことができた。
その後、都くんはわざわざ駅まで送ってくれた。離れるのは名残惜しい。
まだ一緒にいたい、
このまま一晩中一緒にいられたらどんなにいいだろう?
改札口に着いて、改めて向かい合った。
手を繋ぐことさえ憚られる。
「わざわざ駅まで、ありがとう」
「うん」
「またね」
「環」
「ん?」
「…手、繋ぎたい。ちょっとだけ」
握手をするみたいになった。
なんか可笑しい。
「じゃあ、行くね」
ゆっくり手が離れる。
改札を抜けて振り返ったら、都くんは笑顔で手を振ってくれている。
振り返して、それから前を向いて階段を下った。
とても満たされてる、
そう思いながら、両手を擦り合わせた。
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