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第7話
パーーン…パーーン、パパパァア――――――ン……。
今年の夏空を飾る大トリの花火が連続して打ち上がっているのだろう。
夜空に鳴り響く爆発音が聞こえる。
――聞こえる。
『水井戸歩宜 ! おれはおまえがキライだ!』
『え?』
『誰かれ構わずへらへらしやがって! おまえみたいな八方美人はきらいだ』
高校時代、僕の周りには人が大勢いた。当たり障りのない態度で接するだけの人種ばかりだったが。声をかけてくる奴らは教師も含めて皆、当時優等生だった僕を利用しようとする奴ばかりだった。
ノート貸してくれ、だの。答え教えろ、だの。生徒会役員選挙に立候補してくれないか、だの……。何事もそつなくできてしまう僕は別段異を唱えることもしなかった、それさえも億劫だから。
ノートを借りる相手も、答えを教えてくれる相手も、立候補する相手も全部……僕じゃなければいけないわけじゃない。周りに愛想が良く、頼んだら引き受けてくれる人なら誰でもいいのだ。それだけのことだ。
そんな感じで僕の周りには人が絶えなかったけど僕は人に囲まれれば囲まれるほど孤独を感じていた。大勢の中にいるのに孤独なのだ。
そんな時に蘭に声をかけられた。
『誰かれ構わずへらへらしやがって! おまえみたいな八方美人はきらいだ』
良くも悪くもこんな直球で気持ちをぶつけてくる奴なんて今までいなかった。
――パパァア――――――ン……。
……何かが僕の中で弾けた。
『……お前の名前は?』
『…埴野 …だけど』
『じゃあ埴野、……おまえだけにへらへらするよ』
それからは、やらされてる感いっぱいだった生徒会長の仕事も進んでやるようになった。
蘭は初めて僕が懐に入れた人間だった。だけど、あれは来年受験を控えた二年の二学期だったか? 蘭が親の都合で郊外に引っ越すと言った。寂しかった、やっと心を許せる人に出会えたと思っていたから。友達として仲は良かったから連絡先は交換していた。けどお互い受験シーズンに入り学校も違うって事もあって徐々に連絡も取らなくなっていった。全学生がどうかは知らないが、もともと外面だけで世間を渡り歩いていた僕は去る者は追わない性格だ。
だけどすぐにそれを後悔した。
僕は彼を心を許した友達なんてものではなく、好きだったんだと気付いたからだ。
たぶんあの時。パーンと耳もとで鳴っているのかと思うほど衝撃を受けたのは恋に落ちたからだと思う。でも当時は気付いていなくて単に友達として好きなんだと思っていた。気付いても後の祭り。連絡を取らなくなってしばらく経つのに告白……考えた事もあったけど、でもそこは臆病になる。相手がどう思っているかどう反応するかわからない。初めて僕が心を許した人、好きになった人だからその人もこの気持ちも大切にしたかった。だから連絡先は知っているけどそっとこのまま綺麗な思い出として抑えようとしていた。なのに――。
『おいお前、また誰かれ構わずへらへらしているのかよ?』
大学の一般教養の授業 で再会した。学部は違ったけど同じ大学にいた。
運命を感じたからなのか、ただ舞い上がっていたからなのか、そこからは自分で自分の行動力に驚いた。好きになった人を大切にしたいという気持ちは変わらなかったけど、高校時代は抱かなかった『傍にいて欲しい』気持ちが働き、あの時の蘭を見倣 って僕は直球で告白をした。
――その彼の背に当てた耳から心臓の鼓動がドクドクと言ってるのが聞こえる。
一度は抑えようとしていた蘭 が傍 にいる。
温 かい。……僕は独りじゃない。
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