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狼の里中宗佑さん 3
夢でも見ているのだろうか? 目の前には恵の記憶の中にある、あの正臣の顔があった。それとも発情のせいで人の顔すらまともに見えていないのだろうか?
でも、とても懐かしい。二度目の人生もΩの呪いに苦しむ俺に、神様が与えてくれた幻かもしれない。
いや、それでもいい。俺は正臣に会いたかった。幻でも、その正臣が俺にキスをしてくれている。羽のように柔らかくも優しく、それでいて雄としての強さを感じられる温かいキスを。まるで初めて正臣に抱かれた時のようだ。あの時と同じでこの幻もまた、優しく俺を扱ってくれている。
目の前の正臣は俺の唇からそれを離すと、今度は顔中にキスの雨を降らせながら、そのまま俺が着ているポロシャツを捲り上げて平らな胸を撫で始めた。そして上の方にある色づく突起を一つ見つけると、それを摘まんで擦るように愛撫し出した。
「んぁ……それ、んっ……はあ……」
俺より大きな手の平は、皮が厚くてゴツゴツしている。無骨なそれによって行われる繊細な愛撫が気持ちいいのに少しだけもどかしい。俺は彼の頭の上でもっととねだった。
「んああっ……!」
すると、正臣は強く抓った。小さな粒を押し潰すようにされると、ジンと走る痛みと共に何とも言えない快楽が身体の中心を刺激した。
「はあっ……ん、ねぇ……舐め……て?」
今度は突起を舐めてとねだった。俺は捲り上げられていたポロシャツの裾を自分で持ち上げると、彼へその胸を見せつけるようにした。
プツンと尖る二つの突起。それを前に、正臣は舌をそろりと出して舐めしゃぶった。ザワザワとする感覚が胸から全身へと伝わり、俺は一層甘えた声を漏らした。
「ん、ふぅ……気持ち、いい……はあっ……気持ちいいよぉ……」
胸の突起を飴玉のように丹念に転がされたかと思えば、さらに強い刺激として押し潰されるのを繰り返される。しかし正臣の舌は一つしかないので、もう片方は引き続き指での愛撫を続けられた。
「はあっ……はあ……ん、う……?」
快楽へとどっぷり浸かる俺は喘ぎながらも正臣の頭へと触れた。その時、あることに気づいた。胸の下にあるのは灰色の正臣の頭。そこに柴犬のような獣の耳が二つあった。髪の色が前世と違うことにも今、気づいたところだけれど……これ、何だ? ケモ耳というやつだろうか? 正臣の顔なのにケモ耳だなんて、なんだか可愛い。
ピクピクと動くその耳が愛らしくて、俺は思わずその先を口に含んだ。
「ん……ちゅく……」
美味しい。ふわふわの毛に柔らかいゴムのような感触。歯を立てて甘噛みすると、下にいる正臣から「はあ……」と甘みを帯びた吐息が漏れた。
「ああっ!」
俺が悪戯をしたせいか、正臣が胸を乳輪ごとがぶりと噛んだ。正臣の耳は悲鳴と共に、俺の口から剥がされた。そして空いた口にはお仕置きとばかりに、その唇によって蓋をされる。
角度を何度も変えられながら、味わい尽くすかのようなそのキスに、俺はドロリと甘い沼の底へと溺れていった。
首に抱きつき、正臣のキスに夢中になっていると、下肢ではゴソゴソと衣擦れの音が聞こえた。その後、俺の身体の濡れそぼつ秘部に、太い指がゆっくりと埋め込まれた。
「ん、んんぅ……」
ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てながら、下の指は奥へ奥へと侵入していく。前世では何度も貫かれ、これより何倍も大きい質量を受け入れてきた。しかし、圭介の身体はまだ処女だ。いくら充分に濡れていても、受け入れたことのないモノが身体を圧迫する感覚に、苦しさを感じずにはいられない。
そのはずなのに、この身体はとても淫らだった。
「や、あっ……もっと、擦って……もっと、んぁ……奥に、欲しい、の……」
軽くなった脚を自ら大きく割り開くと、反り立つ陰茎からは涎のような愛液が流れ出した。
そんな俺の痴態に、正臣は唇に触れたまま優しく囁いた。
「素直だな」
珠を転がすような声音。なんと綺麗な声なのだろう。それを耳にするだけで達してしまいそうだ。
正臣は指を抜き挿ししつつ、その数を二本三本と次第に増やしていった。そして肉壁のとある一点を探り当てられると、一気に射精感が込み上げた。
「んああっ!」
「ああ、ここだな」
ニヤリと笑んだ正臣は愛液に塗れた俺の陰茎を手に包むと、激しく扱きながら同時にそこを責め立てた。
「あっ、ああっ……ああんっ!」
そうして瞬く間に白濁の体液が体外へと飛び散り、俺は呆気なく達してしまった。
果てた俺は大きく胸を上下させ、呼吸を繰り返した。
気持ちいい。人の手による射精はこんなにも気持ちのいいものだっただろうか。
いや、違う。この人だからだ。この人だから、気持ちがいいと感じるのだ。上手いとか、下手だとか、そういうことではない。望んでいた人が俺に触れてくれるから、俺は今、こんなにも多幸感で満たされている。
だが……
「ん……もっと、して……?」
平常時ならこれで治まるところだが、今の俺は発情中だ。射精一回では治まらない。
俺は正臣の頬を両手で包み込むと、何度目かのキスをする。柔らかい唇を食むように吸いつき、まだまだ欲しいと彼にねだった。
「まだ欲しいのか?」
「ん……足りない、の」
「可愛い子だな」
可愛いと言われ、彼の指を食んだままの後ろの孔がきゅっとすぼんだ。
「おやおや……指だけで足りるの?」
からかうように笑う彼に、俺は首を横に振った。指じゃ足りない。もっと大きくて硬いモノが欲しい。
「指じゃ、やだ……足りないの……お願い……」
何処から出たのかわからない猫撫で声で俺は正臣に懇願した。
すると正臣は指を引き抜いて俺の両膝裏に手をかけると、それを持ち上げて俺の臀部をソファから浮かせるようにした。指を咥えたばかりの下の口が露になると、急に羞恥が込み上げる。
それをジッと見下ろされ、正臣がしみじみと感想を口にした。
「本当だ。ヒクヒクと口を動かして、ここが欲しくて堪らないと言っている」
「やっ……見ない、で……」
「何故? こんなに可愛くて小さな口なのに……ここに私を受け入れてくれるんだろう?」
正臣は片手を離すと、俺からも見えるようにわざと指を立てて入り口付近を抜き挿しした。
「やあっ……やだ、それ……」
これは意地悪な正臣だ。いくら発情中とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。俺は傍にあるクッションを手にすると、自分の顔に押し当てた。
「そんな意地悪、やだぁ……」
泣きそうな声を上げると、正臣はあやすように言った。
「すまない。このまま生殺しをするつもりはないよ。でも、君は処女だろう?」
正臣の声音は穏やかだった。意地悪をするだけだと思っていた指の動きも、何本かに増やしている。俺の中に入れるよう慣らしていたのだ。
見なくてもわかる。俺の中から愛液が溢れて止まらない。
「ケイ」
名前を呼ばれてドキンと胸が高鳴った。クッションを下ろして目だけを出すと、微笑む正臣の顔が俺を覗いた。
そのクッションを取り上げられると、空いた両手を自分の膝裏に回すよう求められる。自分で膝を抱えると、正臣の手が離れて彼は自身のボトムの前を開き、身につけている下着から隆起した陰茎を外気に晒した。
大きい……。きっと発情中じゃなければ無理だと拒みそうな程の質量のそれを目にして、俺はゴクンと喉を鳴らした。
ああ、今からこれで俺の中をいっぱいに満たしてくれるのか。頭には欲しかなかった。
正臣に腰を支えられてゆっくりと、硬くて大きいそれを下の口へと宛がわれる。
「んっ……あつ、い……」
熱を帯びたそれが口に触れるだけで、吸いつくようにすぼんだ。
早くそのコブで塞いで。俺を正臣で満たして欲しい。
「ちょうだい……?」
俺のおねだりと共に、正臣は一気に俺の中へと侵入した。
「ああぁっ!」
指とは比べ物にならない質量のそれは、直腸を通って中の臓器を圧迫する。悲鳴に近い声を張り上げ、俺は大きく背を仰け反らせた。
しかしそんな俺を逃がすまいと正臣は両手で腰を掴み、そのまま最奥まで貫いた。
「あ……ああっ、かふっ……」
まるで焼けた杭のようだ。俺はパクパクと口を開閉させ、必死に酸素を求めた。
苦しい。熱くて痛くて苦しくて、目の前がチカチカする。なのにどうして、こんなにも満たされた感情になるのだろう?
ギュッと込められる力は今にも正臣を食い千切らんとするのに、中の彼はさらに質量を増していく。
「あっ、や……くる、しぃ……ああっ……」
「ああ……熱くて……柔らかくて……溶けそうだ……」
さっきまで余裕だった正臣の声に詰まるものが感じられる。もしかして、俺の中で感じている? 正臣の顔を覗き込むと、何とも艶やかな彼が映った。
ああ、好きだなぁ。
前はそれすら頭に浮かばなかった。失くしてから初めて気づくなど……それも死んでからとは、遅いにも程がある。
俺は膝裏から手を離して彼の顔へと伸ばした。すると彼は上体を落として俺の腕の中へと包まれる。
いい匂い。俺の好きな匂いだ。
俺は彼に脚を巻きつけ、さらに身体を密着させた。
「動くぞ」
その台詞に俺は頷くと、正臣は律動を開始する。
「あっ、あんっ……ああっ……」
グチュグチュと鳴る淫らな水音と共に、正臣は自身を激しく抜き挿しさせた。
正臣へ抱きつく腕に力がこもった。痛い。苦しい。でも気持ちがいい。
ぐちゃぐちゃに掻き回される頭の中で、快感だけはどんどんと増していった。
「あんっ、んっ、気持ち、いいっ……気持ちいいよぉ……!」
「……っ、くぅ……!」
俺がボロボロと泣きながら喘ぐと、腕の中の正臣がその質量を増しつつ射精した。
熱い精液が中に注がれると、俺もまた彼に続いて射精する。
激しい呼吸を繰り返しつつも、俺達は酸素ではなく互いを貪った。合わさる唇と絡み合う舌が、もっと、もっとと要求した。
すると、俺の中で硬度を保ったままの正臣は俺の身体を軽々と抱き上げると、そのままストンと座り込んだ。
「んああっ!?」
尻を落とされ、さらに深く貫かれた俺は悲鳴を上げた。互いに向き合ったまま座り込むこの姿勢はより身体の密着度を増した。
意図せず痙攣する自分の身体。その反応を面白がるように、正臣は俺の尻をやらしく撫でた。
「ほら、今度はそちらが動いて? 何処をどう擦られるのが気持ちいいのか、自分で腰を振るんだ」
「んっ、んんっ……」
言われるがまま俺は頷くと、自ら腰を揺らし始めた。僅かでも羞恥心が残っているのならば、多少は遠慮してそうしただろう。でもそんなもの、俺には一ミリも残っていなかった。
「はあっ……んっ、ああんっ……」
「そう。いい子だ……」
ただ快楽のままに腰を揺らして、熱く滾る正臣を求めた。
彼の亀頭が中で擦れる度に何度目かの射精感が込み上げる。そうでなくてももう達してしまいそうなのに。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい……気持ち良すぎてどうにかなってしまいそうだ。
腰を激しく揺らす中、正臣もまた袋の中で甘い蜜を精製し、俺の中へと注ぐ準備をし始める。
種が欲しい。熱くてドロドロとした正臣の種が。
じゅぷじゅぷと互いの体液が混ざり合う音と、激しく打ち合う身体の音。上では貪るキスを繰り返しながら、俺達は同時に絶頂する。
「あっ、だめっ……も、だめえっ……っ!」
「っく……!」
熱いものがまたも注がれ、ビクン! と大きく背を仰け反らせる。そんな俺の首元に、正臣は革のベルトごと噛みついた。
「あぐっ……!?」
直接ではないとはいえ、首の下に彼の歯が食い込んだ。牙のような鋭いものが突き刺さり、何かがタラリと滴り落ちる。
痛い……でも、そんなこと今はどうだっていい。
「はあっ、はあっ……ん。ねぇ……」
「ああ……まだ足りないんだろう?」
「ん……」
嬉しい。この人は俺のことをわかってくれているのだ。
まだまだ欲しいと我が儘を言う俺を抱いて、正臣は穏やかな笑みを向けてくれた。
「俺もまだ……君が足りない」
そうして俺達は、互いを求め合いながら快楽の海へと溺れていった。
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