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第12話 屈託の原因②
「うん。分かった。智流くん、無理しなくていいから」
志水は安心させるように智流の頭を撫でると、彼の母親へ言った。
「あの、もしよろしければ、オレが智流くんのお友達と先生に会いましょうか?」
「ああ……志水さん、そうしていただければ助かります」
母親は安堵の表情を浮かべた。
「志水先生……」
智流は志水のTシャツの裾をつかんだまま、まだ不安そうな顔をしている。
「大丈夫だから」
志水はもう一度彼の頭を撫でてから、そっと智流の手をTシャツから離し、部屋を出て行った。
智流の友人と先生はリビングに通されていた。
志水は自分が智流の家庭教師をしていることを告げ、彼は具合が悪いので会えないということを伝えた。
友人は三人来ていて、男子生徒が二人、女子生徒が一人である。
恰幅のいい中年の男性教師は、担任ではなく副担任だということだった。
「そうですか……。網埼はまだ学校へ出てこれそうにないですか。私も担任も心配してるのですがね」
マスダという副担任が困ったように眉を下げる。
志水は三人の生徒たちをそれとなく伺った。全員、ごく普通の高校生だ。特にやんちゃそうでもなく、かといって真面目すぎるということもない。
考えてみれば、志水だって二年前までは高校生だったのだ。あの頃の自分と目の前の彼らにそれほどの乖離は感じない。
……少なくともこの中には智流をいじめているやつはいないように思えるけど……。でも、隠れて行われるのがいじめの陰湿さでもあるから一概には言えないか……。
高安 と名乗った男子生徒が、授業のノートのコピーを志水へ託すと、彼らは長いすることなく帰って行った。
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