17 / 72
第17話 真相を知るとき④
「僕が音楽室へ入った瞬間、あいつ後ろから抱きついてきたんだ。そして、言われた。……みんな僕が悪いんだって、僕がマスダのことを誘うから悪いんだって。僕、あいつのことなんか、誘った覚えなんてないのに……!」
膝の上で握りしめた智流の両手が小刻みに震えている。
志水は自分の大きな手で震える彼の手をそっと包み込んだ。
後ろから抱きつかれた格好の智流は身動きができないまま、制服のズボンのジッパーを降ろされ、その中へマスダの手が入り込んできた。
恐怖とおぞましさのあまり声は凍り付き、出てくれなかったという。
マスダの手が下着の中まで入り込みそうになったとき、廊下で足音が聞こえた。
厭らしい手が一瞬ひるむように緩んだ。その隙をついて智流はマスダを振り払い、音楽室から逃げ出した。
「……そのとき廊下で高安にぶつかりかけたから、足音も彼だったんだね。あの足音のおかげで僕は助かったんだけど、お礼も言ってないや、僕。あのときのこと思い出したくなくて……」
智流は話を終えると、疲れたのだろう、大きな溜息を零した。
「……大丈夫か? 智流くん?」
彼の話を聞いただけでも、おぞましく厭な気持ちになったのだ。実際に被害に遭った智流本人は、どれだけ怖かっただろう。
それにことがことだけに、家族や友人にも相談さえできずに、智流はずっと独りで苦しんできて……。
「大丈夫です。……僕、なんていうか、全部吐き出してしまったら、ここにあった重苦しかったものが、とれて楽になりました。……ありがとう、志水先生」
智流は自分の胃の辺りを手で押さえて、そう言った。
ともだちにシェアしよう!