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第18話 約束
志水は話を聞いてあげることくらいしかできなかったのに、智流は、『ありがとう』なんて言ってくれて……、健気な彼の様子に、切なさが込み上げる。
智流はおもむろに言葉の続きを紡いだ。
「……僕、あんなやつがいる学校へ行きたくないんです」
「うん」
「でも、このままじゃダメだってことも分かってて……。いつかはお父さんやお母さんや、お姉ちゃんにも本当のこと話さなきゃいけないんだと思う。じゃないと僕、いつまで経っても高校へ行けないままだもん。転校するなら、それこそ理由を聞かれるだろうし。……でも、今はまだ無理、みたい……」
智流は少しモジモジしてから、縋るような瞳を志水へ向けた。
「……でも、でも。いつかみんなに話す勇気が出たら、そのときは志水先生も一緒にいてくれますか?」
「ああ。オレでよければ」
「……本当に?」
「言っただろ? オレはいつだって智流くんの味方だって」
志水が微笑んでみせると、智流は安堵の表情を浮かべた。
「志水先生、約束だよ……?」
「オレは君が困ったときや辛いときは、いつでも飛んできてあげるから。……なんなら指切りしようか?」
志水が小指を立てて、智流の目の前に差し出すと、彼はくすぐったそうに笑ってから、無邪気にうなずいた。
さすがに、指切りげんまん――、とお決まりの文句は言わなかったけれど、お互いの小指と小指を絡めて、約束をした。
「智流くん、オレも頼みがあるんだけど」
「え……?」
「いつかその副担任に思いきり蹴り入れたいんだ」
「志水先生……」
智流は少しびっくりしたように目を見開き、やがて泣き笑いのような表情でうなずいてくれた。
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