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第19話 危機の直前

 次の週の日曜日、智流は自室で机に向かっていた。  両親は昨日から夫婦水入らずで一泊の温泉旅行へ出かけており、姉の愛香は朝から友達と出かけており、三人とも帰ってくるのは夕方だ。  一人で留守番をしながら智流が解いている問題は、物理だった。今までは苦手だった科目だが、志水が家庭教師に来てくれるようになってからは、好きな科目になった。  ……志水先生が来るのは明日か。  志水先生のことを考えると、胸がドキドキするようになったのは、いつからだっただろう?  それに……彼は智流の心を救ってくれた。  志水先生の前で泣きじゃくって、すべてを吐き出したとき、本当に楽になった。  ずっと怖かったから。あんな話をしたら、志水先生が僕のこと嫌いになっちゃうんじゃないかって……。でも。そんなことは決してなくて。 『君は悪くない、なにも悪くない……』 『いつだってオレは智流くんの味方だよ』  そう優しく囁いてくれた志水先生……。  そして、指切りをした。  智流は自分のか細い小指を見おろした。  志水先生の指は、細くて長くて、とても綺麗だったな……。  胸のドキドキがどんどん激しくなってくる。  いったいこの気持ちは……。  そのときインターホンの音が響き渡って、智流は飛び上がるほどびっくりしてしまった。  不登校になってから、インターホンの音や電話の音に敏感になったような気がする。  いつものように居留守を使おうとしたが、インターホンはしつこく何度もならされ続けている。  智流はしかたなく、自室を出て、一階のリビングへ行った。  網埼家のインターホンはカメラが付いており、訪問者の姿が見えるようになっている。  智流が小さな画面を見ると、某宅配業社の帽子と制服姿の男性が、小ぶりの段ボール箱を持って立っているのが映っていた。

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