20 / 72

第20話 危機

 智流が通話ボタンを押し、 「はい」  応答すると、男性は段ボール箱をカメラの前にかかげて言った。 〈**宅配便です。網埼知良(ともかず)さんに荷物が届いてます〉 「あ、はい……」  知良は父親の名前だ。  智流は少し迷ったが、このまま出ないで、再配達してもらうのは宅配業社の人に迷惑だと思い、玄関へ向かった。  ドアチェーンを外し、鍵を開けると、智流はドアを外側に少しだけ開く。  すると、次の瞬間、宅配業社の男性の手がドアをつかみ、大きく外側に開け放った。 「え……?」  智流が茫然としているうちにも、宅配の男性は家の中へとずかずか入ってくる。 「えっ……? なに……?」  あっという間の出来事に、智流はまだ混乱していた。  宅配業社の男性は持っていた段ボール箱を投げ捨てる。コンクリートの上に落ちたのにもかかわらず、段ボール箱はカサッと小さな音をたてただけだった。中は空のようだ。  ここにきてようやく智流の中で、警戒音が鳴り始める。  情けないくらいに自分が鈍く、無防備であったことに気付いたが、もう遅い。  男は目深にかぶっていた宅配業社の帽子をゆっくりと脱いだ。  智流の心が恐怖で凍り付く。 「やあ、久しぶりに会えたね、智流。ネットで高い金を出して、この制服を手に入れた甲斐があったよ」  そう言って、にやりと厭な笑いを浮かべた男は、副担任のマスダだった。

ともだちにシェアしよう!