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第22話 恐怖

 智流はスマートホンを耳に当て、トイレの床にしゃがみ込み、脚を思い切り突っ張って内開きのドアを押さえていた。  ドンドンと向こう側から衝撃が伝わる度、心臓が縮む思いだった。  さっき、宅配の人間を装ったマスダが家の中へ入ってきたとき、智流は慌ててきびすを返すと、まさに脱兎のごとく逃げた。  トイレに逃げ込んだのは、そこが唯一鍵がかかる場所だったからである。  とはいえトイレについている鍵はそんなに頑丈なものではなく、むしろちゃちなもので、心もとないこと極まりなかった。  それでも着ている服のポケットに、スマートホンを入れっぱなしにしていたことはラッキーだった。  智流は震える指でアドレスから志水の番号を選び、電話をかけた。  志水はすぐに出てくれた。  パニック状態の智流は、自分の身に起こっていることを正確に言葉にできなかったが、それでも志水は危機を察してくれ、今、こちらに向かってくれている。  電波という見えない糸で志水と繋がっていることだけが、救いだった。  早く……早く来て……、志水先生……!  祈るような気持ちでいると、ドガッと一際大きな音が響き、ドアが歪んだかと思うと鍵が壊れてしまった。 《智流っ!? 大丈夫か!?》 「だ、大丈夫……です。でも、鍵が壊されてしまって……、志水先生……、早く来て……」  智流はもう叫ぶ元気もなく、弱々しく掠れる声でそう訴えるのが精一杯だった。 《ああ、もうすぐ着くから――》  志水の声は、ドアの向こうから聞こえるマスダの声にかき消された。 「智流、そんなところに閉じこもっていないで、出ておいで。本当に智流は悪い子だね……。智流が悪いんじゃないか、そんなに綺麗でかわいくて、全身で私を誘っていたじゃないか、智流、ドアを開けなさい」  ねっとりと湿った猫撫で声でそう言ったかと思うと、次の瞬間にはものすごい勢いでドアを叩いてきた。 「開けなさい! 開けるんだっ……智流っ、開けろぉっ!!」  猫撫で声が一転、ケダモノの咆哮に変わる。  今にもドアが破られ、マスダの太い腕が入って来そうで、怖くてたまらない。  智流はスマートホンを床に置くと、全身でドアを押さえた。

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