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第23話 恐怖②

 狂ったように智流の名前を呼び、ドアを乱暴に蹴り叩くマスダは、完全に理性を失っているみたいだった。  ……警察に電話したほうがいいかもしれない。  智流はようやくそのことに思い至った。  変装までして鍵を開けさせ、家の中へ勝手に入って来て、大声で叫びながらトイレのドアを壊そうとしている副担任の様子は、犯罪者といっても過言ではないだろう。  もしこの上マスダがナイフなどの凶器を持っていたら、志水にまで危険が及ぶかもしれない。  僕のせいで志水先生が危険な目に遭ったら……。  智流は唇をきつく噛みしめた。  恐慌状態に陥り、とっさに志水に助けを求めてしまった自分の軽率さが悔やまれる。  智流は床のスマートホンを拾い上げた。  繋がったままの志水との通話をいったん切り、110番通報をしようとした。  そのとき一瞬、ドアを押さえていた体が緩んでしまった。その刹那の間に、ドアが少し内側に開かれる。 「……っ!!」  智流は慌ててドアを押し戻そうとしたが、力の差は歴然としていて、ジワジワとドアの隙間が大きくなっていく。  結局、110番通報することも叶わず、スマートホンが手から離れて床へ落ちた。  開いたドアの隙間から副担任の獣のような手が入り込んできた。 「智流、そんな窮屈なところに閉じこもってないで、出ておいで。なあ……」  太い腕が智流の華奢な腕をつかんだ。 「……いたっ……嫌だっ……離せっ……!」  内開きのため、智流の体が引っかかって、ドアは完全には開かない。  なのに、マスダはそんなことはお構いなしに、グイグイとものすごい力で智流の腕を引っ張ってくる。 「痛いっ……、やめっ……」  腕が抜けてしまうのではないかと思うくらい痛かった。  どのみちこのままだと、智流がトイレから引きずり出されるのは時間の問題だった。  マスダは智流の腕が脱臼しようとも、握った腕を離さないだろうし、ドアを壊してでも智流を捕まえるだろう。  腕の痛みと恐怖が頂点に達したとき、フッと体が軽くなった。そのままトイレマットの上に尻餅をつく智流。  開かれたドアの隙間からマスダが吹っ飛び、宙を舞う姿が見えた。  そして……。 「志水さんっ……」  智流が見たこともない、怒りの形相をした志水がそこにいた。

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