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第26話 片思いの辛さ
まさかオレが智流に恋してしまうなんて……、想像もしていなかった。
志水は溜息を漏らす。
今はまだ頼りになるお兄ちゃんとして、志水を慕ってくれている智流。
でもやがて二学期が始まり、ケダモノがいなくなった学校へ智流は安心して登校を再開する。
そしてクラスメートたちと過ごす時間が増えれば、そちらのほうが楽しくなり、もう『お兄ちゃん』は必要でなくなる日が来る。
そんな未来を想像すると、たまらない寂しさが込み上げてくるのだ。
志水は智流のことを、弟みたいだとは思っていない。はっきりと恋愛感情を持っているから。
「あー、なんかオレ、超情けないやつじゃん。かっこ悪い……」
今までは自分が思われるばかりだった志水。
片思いがこんなに辛いものだということを、初めて知ったのだった。
二学期の始業式にやはりマスダの姿はなかったらしい。
学校は体面を気にしてか、固く口を閉ざして、詳しい話は語られずじまいだったという。
もともと人気がなかった教師だったので、生徒たちの関心も薄かったようだ。
晴れ晴れとした表情で、智流はそう話してくれ、数カ月ぶりに平和な高校生活が彼に戻ってきた。
智流本人と彼の両親が強く希望してくれ、志水は九月になっても家庭教師を続けることが決まった。ただ一人おもしろくなさそうな顔をしているのは、そもそも話を持ちかけてきた愛香だった。
彼女は弟を溺愛しているので、智流が志水になついているのが気に食わないらしい。
網埼家で時々顔を合わせると、すごい目で睨んでくる。
やれやれと溜息をつきながらも、志水は彼女には感謝していた。
彼との出会いをあたえてくれたのは、愛香なのだから。
智流がいつまで志水を必要としてくれるかは分からないけれど、少しでも長く彼とともに過ごしたいと願ってやまない志水だった。
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