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第29話 すれ違う思い
「え? そうなの?」
高安はすごく意外そうな顔をしている。
「うん……」
智流は自作のポテトサラダをつまみながら、うなずいた。
志水は否定したが、もともと姉の紹介でやって来た人だ。やはり二人は恋人同士と考えたほうが自然だろう。
志水さんとお姉ちゃん……お似合いだしね。
智流は自虐的に思い、落ち込む。
自分が同性を好きになる……恋愛感情を持つ、なんて想像したこともなかった。志水と出会うまでは。
副担任の男には、ただだたおぞましさしか感じなかったというのに、勝手なものだと自分でも思う。
でも、あいつと志水さんを比べること自体間違ってるよね。
はっきり言って雲泥の差。
正直、容姿の違いもとても大きいし、マスダみたいに突然抱きついて来たり、ストーカーみたいになられたら、誰でも拒否反応を示すだろう。
ポテトサラダはとても美味しかった。
食べ終わると、智流は短い文章とともに、サラダの写真を添付して志水のメールアドレスへ送った。
志水からの返信メールは六時間目が始まる前の休み時間に送られてきた。
〈おいしそうだね〉
と。
智流は志水からのメールに一瞬、心が躍り、次の瞬間には軽い落胆を覚えた。
……それだけ? なんかあまりにも素っ気ない気が……。
なんていうか、オレも食べたいな、とか、今度作ってみせてよ、とか、そんな言葉が欲しいと思ってしまう。
でも志水のメールの文面が素っ気ないのはいつものことだ。
今回のように調理実習で作った料理の写真を送っても、美術の先生に花丸を貰った水彩画の写真を送っても、裏庭に迷い込んできたかわいい猫の写真を送っても、志水からの返信はいつも素っ気ない。
〈絵がうまいんだ〉 〈かわいい猫だね〉
……まるで惰性で返信メールをくれているだけのようにも思えてくる。
智流は別に長々としたメールが欲しいわけではない。ただもうちょっとだけ、心が弾む言葉が欲しいだけ。
そんなふうに思うのは智流のよくばりであり、わがままなのはわかっている。
志水には志水の生活がある。大学の授業がある上、智流の家庭教師のバイトもしてくれてるのだから。忙しいに違いない。
きちんと返信メールをくれるだけでも、満足しなきゃいけないと頭では分かっている。
けれど、智流は考えてしまうのだ。
お姉ちゃんとなら、志水さんはもっとたくさんの言葉をつづり、〈会いたいよ〉とか、〈好きだよ〉なんて、そんな親密なやり取りをしているんだろうな、と。
志水と姉のことを考えると、なにか重たいものでも呑み込んだように、智流の胸の辺りが重くなる。
それは強く焼けつくような嫉妬の感情だった。
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