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第31話 すれ違う思い③

「それでもう手料理を作ってもらうくらいに、仲が進んでるんだ。イケメン様は得だよなー」  小野が刺々した声で言う。 「オレ、彼女とは付き合ってなんかいないよ」  志水がそう返すと、小野はジメジメした目で睨んでくる。 「とぼけんなー。おまえと網埼愛香ちゃんが二人で一緒にいるところを目撃している奴が何人かいるんだからな」 「……ああ」  そこでまた志水は納得してしまった。  確かに愛香とは何度か外で二人で会ったことがある。だがそれはすべて智流のことについての話し合いのためだ。どう見ても恋人同士の甘い雰囲気からは程遠かったはずだが、はたから見ると、二人で会っているだけで、恋人同士認定されてしまうようだ。 「本当に彼女とは付き合っていないんだけど」  とにかく誤解を解いておきたくて、重ねて言ったのだが、 「ふん」  小野は志水のいうことなどまったく信じていない様子で、ふてくされたように息を吐くとコーヒーに口をつけた。  大いなる思い違いに、志水もまた溜息を落とす。  オレが好きなのは、愛香じゃなくて、彼女の弟なんだ。  そんなふうに正直に打ち明けたら、小野はどんな反応をするだろう。  ドン引き? それともやっぱり頭から信じない? ……多分、そのどちらかだろう。  もう一度、志水は溜息を落とした。  ふと智流から送られてきたメールを思い出す。美味しそうな料理の写真付きの。  智流は家庭教師がない日には、まめにメールをくれる。たいていは写真が添付されている。  写真は今回のように調理実習で作った料理だったり、窓から見えるウサギのような形のした雲だったり、と様々だ。

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