33 / 72
第33話 すれ違う思い⑤
「ねえ、僕、ずっと志水さんに家庭教師してもらっててもいいのかな……?」
久しぶりに家族四人全員が揃った夕食の席で、智流はぽつんと呟いた。
「うん?」
最初に反応したのは父親だった。
「なあに、智流、突然」
次に母親。姉は食事をする手を止めて、ジッと智流のほうを見ている。
「志水さんがなにかおっしゃったの?」
のんびりと母親が聞いてくる。智流は夕食のハンバーグに視線を落としたまま言った。
「ううん。特になにも言われてないけど。でも志水さん、大学の勉強があるでしょ。僕の家庭教師に時間とられて迷惑かけてるんだったら、心苦しいなって思って……」
「うーん。志水くんはまだ二年生だろ。就職活動に躍起になるには早いし、智流の家庭教師くらいなら問題ないと父さんは思うぞ、なあ、愛香」
「さあ、私には四年制大学の事情は分からないわよ」
姉はぶっきらぼうに言い捨てると、付け合せのニンジンのソテーを箸で突き刺した。
なんかお姉ちゃん、機嫌が悪いな。
僕が、お姉ちゃんと志水さんの二人きりの時間を、奪ってしまってる形になってるのが不満なのかな?
……そんなふうに考えてしまうのは、ちょっと卑屈になり過ぎかな、僕。
軽い自己嫌悪に陥っていると、母親が再びのんびりと口を開いた。
「ねえ、智流。志水さんが家庭教師にみえたとき、お母さんはお茶を出したり、帰るときにはお見送りをしたりしてるけど、迷惑に感じてらっしゃるようには思えないわ。ううん、とても楽しそうにしていらっしゃるし、智流のこと大切に思ってくださってるのが伝わってくるわよ?」
「そうかな?」
母親の言葉が智流の胸に甘く響く。
「そうよ。本当に忙しくて無理になったら、志水さん、そうおっしゃるだろうし、それまではこのままでいいんじゃないかしら。ねえ? お父さん」
「そうだな。志水くんはとてもいい青年だし、父さんとしても、できるだけ長く智流の先生でいて欲しいって思うな」
「……うん」
両親の言葉に元気づけられ、智流は微笑んだ。
……ただ一人、姉だけはずっと不機嫌なままだった。
ともだちにシェアしよう!