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第33話 すれ違う思い⑤

「ねえ、僕、ずっと志水さんに家庭教師してもらっててもいいのかな……?」  久しぶりに家族四人全員が揃った夕食の席で、智流はぽつんと呟いた。 「うん?」  最初に反応したのは父親だった。 「なあに、智流、突然」  次に母親。姉は食事をする手を止めて、ジッと智流のほうを見ている。 「志水さんがなにかおっしゃったの?」  のんびりと母親が聞いてくる。智流は夕食のハンバーグに視線を落としたまま言った。 「ううん。特になにも言われてないけど。でも志水さん、大学の勉強があるでしょ。僕の家庭教師に時間とられて迷惑かけてるんだったら、心苦しいなって思って……」 「うーん。志水くんはまだ二年生だろ。就職活動に躍起になるには早いし、智流の家庭教師くらいなら問題ないと父さんは思うぞ、なあ、愛香」 「さあ、私には四年制大学の事情は分からないわよ」  姉はぶっきらぼうに言い捨てると、付け合せのニンジンのソテーを箸で突き刺した。  なんかお姉ちゃん、機嫌が悪いな。  僕が、お姉ちゃんと志水さんの二人きりの時間を、奪ってしまってる形になってるのが不満なのかな?  ……そんなふうに考えてしまうのは、ちょっと卑屈になり過ぎかな、僕。  軽い自己嫌悪に陥っていると、母親が再びのんびりと口を開いた。 「ねえ、智流。志水さんが家庭教師にみえたとき、お母さんはお茶を出したり、帰るときにはお見送りをしたりしてるけど、迷惑に感じてらっしゃるようには思えないわ。ううん、とても楽しそうにしていらっしゃるし、智流のこと大切に思ってくださってるのが伝わってくるわよ?」 「そうかな?」  母親の言葉が智流の胸に甘く響く。 「そうよ。本当に忙しくて無理になったら、志水さん、そうおっしゃるだろうし、それまではこのままでいいんじゃないかしら。ねえ? お父さん」 「そうだな。志水くんはとてもいい青年だし、父さんとしても、できるだけ長く智流の先生でいて欲しいって思うな」 「……うん」  両親の言葉に元気づけられ、智流は微笑んだ。  ……ただ一人、姉だけはずっと不機嫌なままだった。

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