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第34話 切ない秋

 秋は人恋しくなる季節だと誰かが言っていたが、志水にとってはまったくそんなことはなかった。逆に、秋の夜長と言われるように、日の暮れるのが早くなる分、落ち着いて勉強や読書ができる時期だった……そう、昨年までは。  今年は違う。ふと気づけば智流のことを考えている。  家庭教師に行く前日の夜はいつも心が浮き立った。  物理の応用問題と英語のリスニングが苦手な彼に、どうすれば分かりやすく教えることができるかを考えたり、本屋でおもしろいミステリー小説を見つけたら、彼にも貸してあげようと思ったり。  こんなに真剣に好きになった相手は智流だけである。  だからこそ、思いを伝えたくても、伝えられない……それは本当に辛くてたまらかった。  男同士であるという禁忌だけだったら、志水はもうとっくに告白をしていただろう。  どうしても思いを打ち明けられないのは、偏に智流が、同性にストーカーされたという心の傷を抱えているからだ。  切ない秋に身を置いている志水に、愛香から電話がかかってきたのは土曜日の夜のことだった。  愛香はなおざりに挨拶の言葉を口にしてから、唐突に言った。 《志水くん、もう智流の家庭教師には来なくていいから》 「えっ……?」  瞬間、志水の心臓は凍り付き、 「な、なんで急に……」  滑稽なくらい狼狽えてしまう。 《休んでいた分の授業の遅れも取り戻せたし、もう家庭教師は必要ないかなって、智流が言ってたのよ》 「…………」  愛香はさらりと言ってのけたが、志水はショックで言葉が出なかった。

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