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第35話 切ない秋②

《そういうわけだから、じゃ》  素っ気なく言うと愛香は電話を切ってしまった。  志水はしばらく通話が終わったスマートホンを見つめ、茫然としていたが、やがてものすごい恐慌に見舞われる。  そんな、なんで、急に……。  昨日、家庭教師に行ったとき、智流はそんなことはまったく言っていなかったし、そんなふうに思っている様子もなかった。  いつものように真面目に勉強をして、勉強が終わったあとのおしゃべりのときも楽しそうにしていた。なのに……。  そこまで考えたとき、志水の心にふと、愛香が言ったことの真偽を疑う気持ちが芽生えた。  不登校になっていた智流の家庭教師けん相談相手として、志水に白羽の矢を立てたのは彼女だ。  だが、思っていた以上に智流が志水になついたことを、愛香が面白く思っていなかったことも確かだ。  愛香は弟の智流を猫かわいがりしている。不登校の問題が解決されたあとも、家庭教師を続けている志水のことを、鬱陶しく思っているだろう。嘘をついているとまでは言わないが、話を大げさにしている可能性はある。  とにかく智流本人に確認してみなきゃ。  志水は慌てて智流へ電話をかけようとした。が、不意にその手がとまる。  ……どっちにしてもこのまま行くと、遅かれ早かれ彼が家庭教師を必要としなくなる日はやってくる。  そうなると志水は智流に会う理由がなくなってしまう。  スマートホンを握りしめたまま志水は考え込んでしまった。  色々、考えに考えて、志水は一つの方法を導き出した。  だがそれは、おそらく最低、最悪なやり方だろう。  ……恋をしている人間と言うのは、ときにすごく愚かになってしまうものなのかもしれない……。  志水は今度こそ、電話をかける。相手は智流ではない。愛香だった。  スリーコールのあと、警戒するような愛香の声が聞こえてきた。  志水はスウ……と息を吸うと、口を開いた。 「話があるんだけど」

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