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第36話 勝手に突っ走る姉

 お風呂から上がり、智流が自分の部屋で髪を乾かしていると、ドアがノックされた。  「はーい」  返事をすると、姉の愛香が入ってきた。 「智流、あんた明日の日曜日は、高安くんと遊びに行くって言ってたわよね?」  愛香は智流の勉強机の前の椅子に座り、聞いてくる。 「うん。映画を観に行く予定だけど。なんで?」 「ううん。別に」  姉は勉強机の上に広げられている物理の参考書を、綺麗にマニキュアを塗った指でなぞっていたかと思うと、信じがたいことを言った。 「あ、そうそう、智流。さっき私から志水くんに言っておいてあげたわよ。もう家庭教師には来なくていいって」 「……は?」  智流は刹那、姉の言った言葉が理解できなくて間抜けが声が出てしまう。 「だから、志水くんはもう家庭教師には来ないから」  姉の言葉を理解した瞬間、智流はショックのあまり、目の前が真っ暗になった。 「なっ、なんで!? どうして、そんなっ!?」  ものすごい剣幕で智流が問い詰めると、愛香はさっくりと答えた。 「だって智流、もう志水くんの家庭教師は要らないって、前に言ってたでしょ。だから私が言っておいてあげたのよ」  え? 「ええっ!?」  智流はパニックに陥った。 「僕がいつ、そんなことを言ったんだよ!?」  姉に詰め寄る。 「いつだったか、晩御飯のときに言ってたじゃない。『僕、ずっと志水さんに家庭教師してもらっててもいいのかな』って。あれってつまり智流は、もう志水くんの家庭教師は要らないってことを言いたかったんでしょう? そうよね?」 「――――」  智流は絶句してしまった。  あのときの会話のどこをどう解釈すれば、そのような結論に達するのだろう……? 「お、お姉ちゃんっ! それ、ものすごい思い違いだよっ!! 僕はこれからもずっと志水さんに家庭教師を続けてもらいたいんだからっ!!」

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