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第37話 不安と動揺

姉のことをとがめると、智流はスマートホンを取り出し、急いで志水へ電話をかけようとした。勿論、今すぐ誤解を解くためだ。  しかしそんな智流に、姉は無慈悲に言ってのけた。 「やめときなさいよ。もう志水くんだって承知したんだから」  スマートホンをつかんだ智流の手がビクッとなった。 「……え? 志水さん、承知した……?」  智流は激しいショックを受け、動揺した。  ……それって、志水先生は僕の家庭教師を重荷に感じていたということ? 「……そうよ。だからもういいじゃない。自分で連れてきておいてなんだけど、私は志水くんて気に食わないのよね。まあ、不登校のあのときに、あんたを守ってくれたことだけは感謝してるけど」  ショックのあまり、半ば茫然と姉の言うことを聞いていた智流だったが、それでも少し引っかかるところがあった。 「志水さんが気に食わないって……お姉ちゃんの彼氏でしょ……?」  智流が悄然とそう言うと、愛香は大きくかぶりをふった。 「なに言ってんの。違うわよ。まあ確かに見た目は好みよ。でもなんていうか、根本的なところで相性が悪い気がするのよね」 「…………」  さまざまな種類の感情が一気に押し寄せ、智流の胸はパンク寸前だった。  志水が姉と付き合っていないと分かり、ホッとした気持ちはあったが、だからと言って彼に彼女がいないとは限らないので、また新しい不安が生まれる。  なによりも智流を打ちのめしたのは、志水が、家庭教師をやめることを承知したということだった。  志水先生……、あんなに丁寧に勉強を教えてくれたし、おしゃべりしているときも楽しそうにしてくれていたのに、本当は迷惑だった?  智流はなんども志水に電話をかけようとしたが、結局勇気が出なかった。  家庭教師をやめると志水の口から直接言われるのが怖くて……。  智流はその夜、動揺と不安でほとんど眠れなかった。  

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