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第41話 最低な方法
「だから……、オレと付き合って欲しいんだ」
最低最悪のやり方だと分かっていながらも、志水は愛香にそう言った。
目の前の愛香は呆れかえり、これ以上はないくらいに不機嫌そうな顔をしている。
――三十分ほど前、智流がいない網埼家を訪ねた志水は、愛香に願い出た。
「本当に家庭教師がもう必要ないんだったら、君の恋人と言う立ち位置で智流くんを見守り続けたい」
志水の、どう考えても道理の通っていない告白に、
「はあ?」
案の定、愛香は頓狂な声をあげる。
「ちょっと志水くん、あなた大丈夫? いったいなに言ってんのよ? なんで私が志水くんを恋人にしなきゃいけないのよ?」
「君の恋人と言う立場なら、いつでも智流くんに会えるだろ?」
「だから、なんでよ? 智流に会いたい? 見守り続けたい? それがどうして私と恋人になることに繋がるのよ?」
愛香がお手上げといったふうにゆるゆると何度もかぶりを振った。
「……オレは、智流くんが好きなんだ。彼に恋愛感情を持ってる。だから、彼の傍にいたいんだよ」
志水は彼女からの罵詈雑言を覚悟して、自分の本当の気持ちを打ち明けた。
だが、彼女は幾分顔をしかめたものの、特に驚くことも志水を罵ることもなかった。
「やっぱりね。なんとなくそうじゃないかとは思ってたのよ。だからこそ智流をあなたから遠ざけたかったのよ。正直言って、すごく不愉快ではあるわね。あ。誤解しないでね。別に男同士だからって、どうこう言ってるわけじゃないの。ただ智流はまだ当分、誰にも渡したくないのよ。すごくかわいい弟なんだから」
敵意の籠った目で志水を睨むと、愛香は深々と溜息をつく。
「でも、分からないわ。そんなに智流が好きなら、どうして本人に告白しないの? なんで、私に話をするのかしら。フラれるのから怖いから? 情けないわね」
半ば独り言のように呟く彼女に、志水は告げた。
「……確かにフラれるのは怖いよ。でも智流くんに思いを伝えられないのは、あの事件があったからだ」
愛香がハッとした表情になった。
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