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第42話 最低な方法②
「男から執拗なストーカー行為を受けて、智流くんの心はすごく傷ついていると思う。そんなあの子に、オレが恋愛感情を抱いているなんて伝えるのは、いたずらに嫌なことを思い出させるだけだ。……智流くんをこれ以上傷つけたくないんだよ」
「…………」
「智流くんにオレの気持ちを伝えることはできない。でも、あの子の傍にいたい。……だから」
「…………」
「……オレと付き合って欲しいんだ」
不機嫌な表情のままずっと黙りこくっていた愛香が、口を開く。
「私を利用して、智流の傍にいようっていうわけ?」
「ああ、そういうことになる。君には悪いけれど」
志水の言葉に、愛香は外人のように大げさに肩をすくめた。
「呆れた。ううん、呆れるのを通り越して笑いそうだわ。志水くんって頭いい人だって思ってたけど、バカだったんだね。それとも誰かを好きになると、男ってバカになるものなのかしら? どっちにしてもふざけてるわ」
「それは分かってる――」
言いかけた言葉を愛香が遮る。
「分かってない。志水くん、あなた、もしも私に本当の恋人ができたら、どうするつもりなの? そこまで考えた?」
「それは……」
考えていなかった。そんな当たり前のことさえ考えられないでいた。正直言って愛香の都合にまで気持ちが及ばなかったのだ。
……でもそれじゃ、どうすればいいんだ?
オレは智流が好きで……どうしようもないくらい好きで……。
でも思いを伝えることは、あの子を傷つけることになるからできない……。
どんなに好きでも、抱きしめたくても、それは許されなくて……。
「智流のことしか考えていないって顔ね、志水くん。でも残念だけどあなたに智流は――」
そのとき、愛香の言葉の続きをかき消すように、サイドボードに置かれた電話が鳴り響いた。
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