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第45話 小さな公園で②
「智流?」
「志水先生、……お願いだから……」
「え?」
「お願いだから……、僕の家庭教師をやめないで……」
「え……? でも、もう家庭教師は必要ないって、君が言ったんじゃ……」
「それはお姉ちゃんが勝手に思い違いして言ったんです! 僕はそんなこと、言ってないっ……!」
志水の言葉を遮り、智流が縋るような声を出した。
「智流……」
やっぱり愛香が話を作っていたのか……。
そうではないかと疑ってはいたが、実際に智流本人の口から本当のことを聞いて安心した。
しかし、安堵も束の間、彼は思いもかけない言葉を口にした。
「それとも、彼女の弟の家庭教師をするのは、抵抗がありますか?」
「は?」
彼女の弟? ……彼女って、もしかして愛香のことを智流は言ってるのか?
「ちょっ……、君のお姉さんはオレの彼女なんかじゃないよ!?」
慌てて誤解を訂正しようとする志水。
「……でも、志水先生はお姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「はあ?」
どうして智流はこんなにもオレと愛香の仲を疑っているんだろう……?
智流はしょんぼりとうつむいている。雨に濡れた髪が額に貼りついているのを、指でそっとはらってやりながら、志水は考えた。そして一つの結論に達した。
「……もしかして智流、君、一度家に帰ってきたのか?」
志水の問いかけに智流は小さくうなずいた。
「ごめんなさい。志水先生がお姉ちゃんに告白しているところ……聞いちゃいました……」
……やっぱり……!
智流の言葉に志水は天を仰ぐ思いだった。
「違う、それは誤解……いや、そういうことを網埼に言ったのは確かだけど、でも違うんだ、智流」
智流は話の前後を知らないで、志水が愛香に、『付き合って欲しいんだ』と言ったところだけを聞いてしまったみたいだ。
まったくなんというタイミングの悪さだろう。卑怯な手を使って智流の傍にいようとした志水への罰なのか。
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