49 / 72
第49話 とまらない涙
家は暖かかった。どうやら姉がエアコンの温度を高くしておいてくれたようだ。
智流は脱衣所からバスタオルを二枚と、両親の部屋から父親の服の上下を持ってきて、志水に渡した。
そして自分は再び脱衣所へ行き、濡れた髪と体を丁寧に拭ってから、新しいセーターとジーンズに着替える。
ずっとドキドキし続けている胸をなんとか落ち着けようと、何度も深呼吸を繰り返したが、無駄な抵抗だった。
それでもなんとかコーヒーを淹れると、志水のいるリビングへ戻る。
父親の服は、志水には上はともかくズボンは丈が短すぎて、ほとんどハーフパンツみたいになっている。それなのにどこかお洒落に見えるのは、志水のもとがいいからだろう。
「智流? どうした? 大丈夫か? まだ気分、悪い?」
志水に見惚れてボーッとなっている智流のことを心配して、彼はソファから立ち上がり傍に来てくれた。智流が持っているコーヒーの乗ったトレイを受け取ってくれ、テーブルの上に置く。
「あ、ご、ごめんなさい。もう全然大丈夫です」
智流が慌ててそう言うと、志水はようやく安堵したように微笑んだ。
優しい、志水さん……。
甘く切ない疼きが込み上げてきて、涙が出そうになるのを懸命にこらえる。
と、不意に志水が智流の手を引っ張った。
「わっ……?」
智流は志水の腕の中へ倒れ込む形になった。
「智流、オレ、ちゃんと君に言いたいんだ」
「え?」
志水が切れ長の綺麗な瞳で、真っ直ぐに智流を見つめてくる。
「オレは智流が好きだ。だから付き合って欲しい。恋人として」
志水の告白に、とうとうこらえきれなくなった涙が智流の瞳から溢れた。
智流は泣きながら、何度も何度もうなずいた。そして涙混じりの声で自分の気持ちを伝える。
「僕も志水さんが好きです……。だから、恋人になりたい……」
さっきまでは雨が涙を隠してくれていたけど、今は止まらない涙を隠すことはできなかった。
ともだちにシェアしよう!