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第50話 幸せ……
「智流……」
甘い声で名前を呼ばれ、目元の涙にそっと口づけられた。……少しくすぐったい。
いったん志水の顔が離れ、見つめ合う。
「オレ、最高に幸せだよ、智流……」
「僕も、すごく幸せ……」
そして志水の端整な顔が再びゆっくりと近づいてくる。
志水の唇がそっと智流の唇に重ねられる。智流にとってファーストキス。体が小さく震える……幸せすぎて。
やがて志水の唇が名残惜しそうに智流の唇から離れていき、次の瞬間には彼の腕の中に強く抱きしめられた。
「好きだ……智流」
「僕も好き……」
何度も愛の言葉を囁き合う。志水の大きな手のひらが優しく智流の髪を撫でてくれる。
……ずっとこうしていたい。志水さんに抱きしめていて欲しい……。
智流は志水の背中に両腕を回し、縋りついた。
二人はしばらくそのままお互いの体温を感じ合っていた。
小さな頭を志水の胸へ押し付け、彼の手がゆっくりと髪を撫でるのを心地よく感じていると、不意に彼が言った。
「ああ、そうだ、智流。オレ、君の家庭教師はやめるから」
「えっ!?」
志水の突然の言葉に、智流は狼狽えて顔を上げる。
「ど、どうしてっ!?」
甘い気持ちから一転、動揺しまくる智流に、志水は苦笑した。
「そんな顔するなよ。恋人に勉強を教えるのにお金貰うなんておかしいだろ? だからだよ」
「じゃ、じゃあこれからも僕に勉強、教えてくれますか!?」
「勿論」
「良かった……」
「それにね、これからは勉強だけじゃなくって、二人で色々遊びに行こうよ。映画を観たり、ご飯食べに行ったりさ」
「志水さん……」
智流の心が再び甘く幸せな気持ちで満たされる。
「智流はどこに行きたい?」
「……遊園地に行きたい」
自分でも恥ずかしくなるくらい甘えた声が出る。なんだか無性に志水には甘えたいのだ。
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