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第53話 浮き立つ心
クリスマスイブの日、志水は朝からソワソワと落ち着かない気持ちでいた。
今日、智流が初めてこの部屋へ来る。二人きりでクリスマスイブを過ごすために。
恋人が自分の部屋へ来る、それも泊まりで。心が浮き立つのは当然だろう。
今朝は早くに目が覚め、朝食をとったあと、1Kの部屋に丁寧に掃除機をかけた。
志水の部屋は必要最低限の家具や家電しかなく、もともとそれほど散らかってはいない。
志水は殺風景な部屋を見渡しながら思う。
……そう言えば、この部屋に恋人を招くのは初めてのことだな。
部屋に招きたいと思うほど好きになった相手は、智流以外いない。
……まさか同性を好きになっちゃうとは、想像もしていなかったな。
志水は苦笑を浮かべたが、それはどこか甘さを含んだ幸せ溢れる苦笑だった。
部屋を見渡していた視線が、ハタとベッドでとまる。
志水は少し逡巡してから、机の引き出しを開け、中からコンドームを取り出すと、それをベッドの枕の下へ忍ばせる。
恋人が泊まりに来るということは、イコールそういうことを意味するものだろう、普通は。
志水だって二十歳の男だ。下心はある。
だが、志水は智流に行為を無理強いする気はなかった。
今時の高校生の男子にしては、智流はかなり奥手なタイプである。彼が自分から志水を受け入れてくれる気持ちになるまで、いつまでも待つつもりだった。
そう思いながらも男の性か、心の中に期待する気持ちがまったくないとは言えないので、こっそりとコンドームを忍ばせたのだ。
正午を少し回った頃、智流から駅に着いたと電話が入った。
志水は高鳴る胸の鼓動とともに、慌ただしくマンションの部屋を飛び出した。
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