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第54話 二人のクリスマスイブ
「志水さん」
駅の改札を出たところで智流は待っていた。
志水の姿を認めると、愛らしい面立ちをよりいっそうかわいらしく微笑ませる。
「お待たせ。寒いな、今日は」
「うん。なんか、クリスマス寒波ってやつみたい」
そう言って白い息を弾ませる智流は、真っ白なダウンコートを着ている。暖かそうなそれは、彼にとても似合っていて、まるで天使が舞い降りてきたみたいだ。
「じゃ、行こうか」
智流を促して歩きだす。
「マンションに戻る前に、スーパーに寄っていきたいんだ」
「スーパーですか? 志水さんでもスーパーとか行くの?」
智流がいかにも意外だという表情をしたので、志水は笑ってしまった。
「当たり前だろ。一週間に一度は行くよ」
「そうなんだー」
「今夜の食事は一応ケータリングを頼んであるんだけどね。サラダは智流に作ってほしくて。ほら、いつか調理実習で作ったって言ってたポテトサラダ」
「あ……」
智流の頬に朱が走る。
「作ってくれる?」
「はい……」
智流ははにかんだようにうなずいた。
スーパーで買い物をし、美味しいと評判の洋菓子店で予約してあったクリスマスケーキを受け取り、志水と智流はマンションへ帰ってきた。
志水の部屋は五階なので、二人はエレベーターへ乗り込む。
狭いエレベーターに二人だけで乗っていると、智流の緊張がオーラになって伝わってきた。それに共鳴する形で、志水の緊張もより大きくなり、胸の鼓動は相手にまで聞こえてしまいそうなほどだ。
トクトク速い心拍。でもそれは心地のいいときめき。甘い期待を孕んだ胸の高鳴りだった
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