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第55話 二人のクリスマスイブ②

「どうぞ、智流」  大きくドアを開けて、智流を部屋へ招き入れると、 「わー、すごい。きれいな部屋ー」  彼は無邪気な声をあげた。 「今朝、早起きして掃除機かけたからな」 「一人暮らしってテレビドラマの中とかではよく見るけど、実際にしてる人って僕の周りにはいないから、なんか尊敬しちゃいます」  くりくりしたバンビのような瞳で見つめられ、そんなふうに言われると、この場で抱きしめてしまいたくなる。  志水はその欲望を懸命に抑えつけ、平静を装う。 「高校生で一人暮らしをしているやつはあまりいないよね。っていうか、校則で禁止されているところも多いし。でも大学に入ると一気に一人暮らし率が増えるよ。……智流、そこのソファに座ってて。今お茶入れるから」  智流にソファへ座るように促し、志水はお湯を沸かすため、キッチンへ立った。  智流は座ったままキョロキョロと部屋を見渡している。  キッチンに置かれたフライパンや鍋に目をとめると、 「志水さんって、自炊するんですか?」  小首を傾げて聞いてきた。 「あー、うん。大学に入ったばかりの頃はちょくちょく作っていたけど、今はほとんどしないかな。コンビニ弁当か、外で簡単に済ませちゃうかで」 「そうなんだ……」  なぜか智流の声が急に沈んだものになり、物問いたげな顔で志水のほうを見ている。 「なに? どうしたの?」  志水が優しく訊ねると、少しの躊躇いのあと、彼は口を開いた。 「女の人に料理、作ってもらったこととかあるんだろうなって思ったら、ちょっと落ち込んじゃいました。……バカですよね、僕」  しょんぼりとうなだれる智流の姿に、志水は切ない疼きを感じた。 「料理もなにも、この部屋に女性を入れたことはないよ。男友達が何人か集まって飲むことはあったけどね。好きな人を招いたのは君が初めてだよ、智流」  志水の言葉を聞いて、曇っていた智流の顔がみるみる明るくほころぶ。 「……うれしい……」  その笑顔の可憐さにクラクラした。智流は志水の心を虜にして離さない。彼の素直さ、真っ直ぐさが愛しくてたまらない。

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