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第56話 二人のクリスマスイブ③

 紅茶を入れ、小さなテーブルを挟んだ向かい側に志水が座ると、智流は持っていた鞄の中からA5サイズの紙を取り出した。 「志水さん、これ見てください」  そう言って、その紙を志水のほうへと差し出す。 「え? ……あ、通知表?」 「そうです。物理の欄を見てほしくて」  智流に促されて、志水は二つ折りにされた紙をゆっくりと開いた。  智流は成績優秀で五段階評価のうち五が一番多く、あとは四がちらほら。物理の欄を見ると五だった。  智流は瞳をキラキラさせてうれしそうに言う。 「僕、物理で五を貰ったの、初めてなんです。それにね、英語の先生からも、リスニング能力がついたって褒められたし。どっちも志水さんのおかげです」  それは志水にとってもうれしいことだった。手を伸ばして智流の頭を撫でる。 「あの、志水さん、これからも僕の勉強見てくれますか?」 「ああ。智流は飲み込みが早い優秀な生徒だから、オレも教え甲斐があるよ」  頭を優しくポンポンすると、智流は満面の笑みを浮かべた。  智流がポテトサラダを作り終えたとき、ちょうどケータリングの料理が届いた。  小さなテーブルには所狭しと色々な料理が並べられたが、志水の目当てはなんと言っても、智流が作ってくれたポテトサラダだ。  大きめのお皿に形よく盛られたサラダはとてもおいしそうである。  志水は早速、小皿にサラダを取り分ける。  不安そうな顔で見ている智流の前で、志水はポテトサラダをほおばった。 「おいしいっ……」  思わず言葉が飛び出し、智流が安堵したように微笑んだ。 「本当に? お世辞じゃない?」 「うん。すごくおいしい。ポテトサラダって、なんかマヨネーズの味が濃いイメージがあったんだけど、これは少し違うね。いくらでも食べれそうだよ」 「醤油とお酢で軽く下味をつけてるんです。それでマヨネーズは少なめにして」 「それで、口当たりがあっさりしてるんだ」  恋人が作った料理というひいき目をなしにしても、サラダはおいしくて、ほとんど志水が一人で平らげてしまった。  デザートにクリスマスケーキを食べたあと、志水と智流は二人掛けのソファに並んで座った。

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