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第58話 守ってあげたい恋人

 志水はそれなりに恋愛経験がある。  付き合った女性にプレゼントを贈ったことも何度かあった。けれども指輪だけは今まで誰にも贈ったことはない。  指輪というものにはどうしても特別なものを感じるし、正直言ってそこまで女性にのめり込むことはなく、同じ相手と長い期間付き合うこともなかった。  モテる男の傲慢さゆえか、付き合い始めたときから既に別れの準備をしている、志水にとっての恋愛はいつもそんな感じだったのだ。  でも智流は違った。彼とはいつまでも一緒にいたい。離したくない。クールな恋愛観しか持っていなかった志水が生まれて初めて抱く、胸を焦がすような恋慕の思い。  ずっと傍にいたい相手、この腕の中で守ってあげたい恋人。そんな強い想いの一部を指輪に込めて贈ったのだった。  智流は潤んだ瞳で指輪を見つめ続けている。志水は彼の手のひらからそっとそれを取り、左手の薬指にはめてやった。 「……ぴったり。どうして……?」 「オレの指と比べて大体のサイズを想像してみたんだけど、本当ぴったりでオレも驚いてる。でも良かった。サイズを直してもらう必要はなさそうだね」 「……ありがとう、志水さん。大切にします……」  智流の目からとうとう涙が溢れて、白くなめらか頬を伝う。  志水は唇でそっと目元の涙を吸い取ってやる。 「智流……」  そのまま唇をすべらせ、彼の唇へ口づけた。 「ん……」  志水は智流の柔らかな唇を何度もついばみ、強く吸い上げ、次第に開かれていく彼の唇のあいだへ舌を忍び込ませた。 「んっ……志水さ……」  そっと重ね合わせるだけのキスは、もう数えきれないくらい交わしていたが、大人のキスを交わすようになったのは、最近である。  初めは完全に受け身で、志水のされるがままだった智流だったが、ようやくたどたどしいながらも彼のほうからも、応えてくれるようになってきていた。  志水の舌に、自分の舌をそっと触れ合わせてくる。  初心者マークがはっきり見えるような、まだまだ拙い智流のキス。  けれど、唯一無二の愛する人と交わすキスは、志水の頭の芯をしびれさせるほど甘く心地よかった。口づけだけで高みへと昇りつめてしまいそうなくらいに。

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