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第71話 語り合う二人②

 そして、ゆったりと言葉を紡いだ。 「……オレはせっかく難関と言われてる大学に通ってることだし、がんばってそれなりに名前の通った会社に勤めたいな」 「会社員ですか?」  腕の中の智流が意外そうな声を出す。 「うん。会社でなにかを開発したり考案したり、一からなにかを作り上げるような、そんな仕事がしたいかな」 「ふうん……」  智流がバンビのような瞳を輝かせて、感心している。 「智流のほうこそ、将来なにになりたいんだ?」  志水が同じことを智流に聞き返すと、彼はしばし愛らしい唇をとがらせて考えていたが、やがて少し困ったような口調で言った。 「僕は志水さんとは逆で、自分がなにかを任されるとプレッシャーでパニックになっちゃうから、誰かに言われたことを黙々とこなすほうが合ってるかもしれない。あんまり難しいことを言われたら狼狽えちゃいそうだし、とろいし、怒られてばかりになっちゃいそうだけど……。うーん……、それならもういっそのことお茶くみでもコピー取りでもなんでも一生懸命します……みたいなほうが気が楽かも。男としてはかなり情けないですけど」 「ずいぶん自己評価が低いんだな。智流は頭もいいし、物事の飲み込みも早いから、上を目指せると思うよ」 「無理ですー。お茶を美味しく入れるのなら自信がありますけど……」  えへへと恥ずかしそうに笑う智流。そのとき志水の脳裏に一つのビジョンが浮かんだ。 「会社でお茶を入れるくらいなら、オレだけのためにお茶を入れて欲しいな……」  それは志水にとって最高に幸せな将来。 「えっ……?」  智流が大きな目を更に大きく見開いて、志水を見つめた。

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