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運命のマッチング 3

「だってもうそうするしかなくない?」 「なくはないだろう……わかんないけど」  そもそもベータである柳くんにする話ではないかもしれないけれど、逆にこんな話柳くんにしかできない。   元々表情が少ない柳くんだけど、今は眉間のシワがだいぶ深い。 「ていうか、どうなのそこんとこ。千草はスオウが好きなわけでしょ? アルファも苦手だし、それなのに別の番を作るとか」 「あー、いや、それとこれとは話が別で」 「でも千草ってそういう男がタイプなんでしょ? しっかりオメガしてんじゃん」  ピピッ、パシャリ。  そんなシャッター音と一緒に後ろから響いてきた声に、勝手に体が強張って身構える。  黙っていれば嵐が過ぎ去らないかと思ったけれど、近づいてきた足音に観念して振り返った。 「(うるみ)……」  案の定、そこには苦手な金髪がカメラを構えていて、ニヤニヤとこちらを見ている。というかまた一枚撮られた。  たぶんそのレンズで僕のスマホの画面を覗いたんだろう。盗撮という概念はこの人にはない。 「オメガとして、こういう男に抱かれたいって思いながらヒートの時にオカズにしてるんじゃないの。男のアイドルとか、わりとミーハーなんだなお前」  周りが一瞬静まるくらいには響く声で問われ、ため息が洩れる。  残念ながら潤のこういう嫌な絡み方はいつものこと。  色の落ちかけた金髪ときつい吊り目ながら整った顔と細身の癖に僕よりよっぽど恵まれた体躯からわかるとおり、潤はアルファだ。  しかも一般的なアルファらしく支配的で、オメガを下に見ているのを隠しもしない一番苦手なタイプのアルファ。高校の時もこんなタイプに絡まれて、結果的にアルファが苦手になったんだ。 「……そういう下世話な話に人の推しを使わないでほしい」  本当は話したくないけれど、変な妄想をスオウに押し付けられちゃ黙っていることもできずに声を絞り出す。 「スオウはそういうんじゃないんだよ。そもそも僕ガチ恋じゃないし」 「なにガチ恋って」 「……アイドル本人と実際付き合いたいとか結婚したいと思うくらいガチで恋してるのがガチ恋」 「普通好きってそういうもんでしょ。じゃなかったらなにが目的なわけ? ワンチャンいけるならいくっしょ?」 「僕は憧れて応援してるだけだから」  返しながらそっと自分の首輪に触れる。  オメガが事故で望まぬ番にならないために自衛でする首輪。わかりやすいオメガの印。  オメガがアルファのアイドルを応援することは、性欲込みじゃないとよっぽどおかしく思われるらしい。 「僕の応援のスタンスとして本人たちとは関わりたくないしできる限り認知もされたくない。ただただ頑張りを応援して、その輝きに元気をもらってありがたがるだけ」  あとはそのお礼としてできる限り貢ぐくらい、というのは心の中で思うだけにする。  グッズを買ったりCMしたものを買ったり、そうやって本人に関するところにお金を落とすのも大事だとは思うけど、これはニュアンスとして誤解を招きそうだしそこまで説明する義理もない。 「はああ? 意味わかんねー」  それでも潤には十分理解不能だったらしい。  そりゃあ真っ当なアルファとして生きている潤には理解できないだろう。  自分が辛い時に心を躍らせてくれる存在がいかに大事で、尊いものか。 「そんなこと言って、そのアイドルに恋人できたらどうすんの? 嫌なわけっしょ? だったら自分がとか思うだろ?」 「思わないよ。本業に支障がなければ僕がどうこう言う問題じゃないし。本人が幸せで、本人の選んだ人なら、というか本人を考えて幸せにしてくれる人なら別に。大体なんでも恋愛に絡めるのってどうなの? 確かにメグスクも恋愛の歌はいっぱい歌ってるけど、その一つ一つの状況を実際知らなきゃ曲を楽しめないわけじゃないでしょ? 想像力が足りないと思わない? そもそも僕がオメガでメグスクがアルファだからそういう勘違いをするの? それってメガハラだよ。気を付けた方がいいよ潤」 「……千草って、喋らなきゃ綺麗な顔してるのにな」  思わずまくし立ててしまって、落ち着くために大きく息を吐いて吸うと、潤が心底残念そうにつぶやいた。  正直その言葉はよく言われる。主に潤にだけど。  僕の色素の薄い髪は染めているのかと聞かれる茶色だし、一般的なオメガより背は高めだけど筋肉がつかないせいで体は薄っぺらい。そのせいで黙っていればオメガらしくてイけるのに、なんてからかわれることもしばしば。  なんでも潤は"オメガらしい"憂えた顔や困った顔、とにかくそういうネガティブな表情を撮りたいそうだから余計喋ると残念がられる。  でもそんなの僕に関係ない。 「残念でいいから撮るのやめて」 「はいはい。じゃあまたそのアイドルがスキャンダルで騒がれたらそのがっかり顔を撮りにくるわ」  そして潤もそんなことでめげるほど繊細ではなくて、素直に引くふりをしてむっとしている僕の顔をきっちり撮っていくんだからどうしようもない。 「よく頑張りました」  そんな僕の頭を撫でて、柳くんが労わってくれる。なんだかどっと疲れた。 「なんでこんなに絡まれるんだろ」 「小学生だからかな、中身が」  ため息交じりの僕の言葉に、柳くんは呆れた様子で肩をすくめる。  オメガだから見下してもいいだろうと思うアルファはわりと普通にいて、潤もそのタイプなんだろう。絡まれるこっちはとんだ迷惑だ。 「でも千草って、苦手なわりには潤に結構言い返すよね。ちゃんと立ち向かって偉いけど、あんまり構うと調子乗るよ、ああいうのは」 「うーん、本当に、同じアルファでもメグスクはあんなにかっこいいのになぁ」 「その、なんでもメグスクに繋げられるとこは千草の特技だよね」  そんなことを言って感心のため息をつく柳くん。気づいたらメグスクの話をしてしまうのは、ファンというかオタク的な気質なんだろう。  それはそうと、邪魔者がいなくなったところでいい加減話を戻そう。

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