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運命のマッチング 4

「で、本題なんだけど」 「あ、まだ本題じゃなかったんだ」 「実はこれ、昨日登録してみたんだけどね」 「番の話? なにその行動力」  スマホを操作して起動したのはいわゆるマッチングアプリ。  たくさんあってよくわからなかったから、とりあえずよくCMで見る大手のものを選んでみた。  その名も「運命の番」だ。  有名な婚活サイトが運営しているアプリで、とにかく登録者が多い。無料だけど身分証明書が必要で、登録の際には細かい質問がいっぱいのアンケートも必要な上バース型の番号まで入力が必要だった。  そんなところにとりあえず昨日登録してみたわけだけど。 「なんかいっぱい来ちゃって」 「え、シンプルに引くほど怖い」  その画面を表示しながら柳くんに見せてみると、盛大に眉を寄せられた。  システム的には、気になった相手に「いいね」とリアクションして、それに返せばマッチング成立としてメッセージのやり取りができるようになるらしい。  その「いいね」が、登録したばかりなのになぜだか大量に来ていて困ってしまった。 「……まあ、大学生で番希望じゃこうなるか。ていうかこの『初めての裏アカ』みたいな自撮り写真なに?」 「いや、こういうところで素直に写真載せるのもどうかと思って」  自分でも怪しいと思う点をとても的確なたとえでつっこまれ、説明させてほしいと事情を語る。  もちろんプロフィールの写真は自然な笑顔のものがいいということはわかっている。説明にもそう書いてあった。  だけど手持ちにちょうどいい写真がなく、ついでに誰が見ているのかわからない初めてのマッチングアプリでいきなり顔を晒すのもためらいがあり。  とりあえず目を隠してみようと手元にあったメグスクグッズのタオルを目に当てた。けれど自撮りに慣れていないため片手でうまいこと写真が撮れず、タオルもそんなに長さがなかったからどうしようかと思考した結果が、これ。 「なんでベッドの上で目隠しして自撮りしてんの? そりゃ大量に男が釣れるだろ。バカなの?」 「釣ったつもりはないんだけど……どうしたらいいと思う?」 「そりゃ全部断った上で写真をまともなのに変えろとしか」 「でもせっかくいいねって送ってきてくれてるわけだし」 「じゃあ……あーとりあえずこの相性検索っての使ってみたら? 少しは数が絞れるんじゃない」  投げやりさが滲む反応ではあったけれど、それでも答えをくれるから柳くんは優しい。  示された検索名に指先を合わせると、別に説明が出た。どうやら登録の時に答えた大量のアンケートとバース番号で相性を診断するらしい。 「よし。えい」  占い程度のものだとしても、こんな場合にはそれぐらいのアバウトさがいいかもしれない。  よくわからないままにタップをすると、数秒で結果が出た。 「……あれ、一件になった」  くるくると星が回るローディング画面の後、目立つように表示されたのは一件。  相性は99%。100%じゃないところが微妙にリアルな数値だ。しかも他は軒並み低く、80%台もいない。そういうものなのだろうか。  とりあえず詳しく見てみようとその人のプロフィールに飛ぶ。  相性99%さんのニックネームはライト。25歳。プロフ写真はまさかのイルカのキーホルダー。顔写真でさえない。  プロフィールや自己紹介文も必要最低限で、本気で相手を探しているようには見えない。とりあえず登録したという雰囲気が滲み出ている。  それでもなんとなく悪い人ではないんじゃないかと思えるのはキーホルダーが可愛いからだろうか。 「とりあえずいいねって送っとこう」  相性がいいのは縁を感じるし、他に指標もないからとりあえずの反応。  ともかくアプリに慣れるため、まずは写真を変えようとかと思考する間もなく見慣れぬアイコンがついた。 「あ、メッセージ来た」 「この時間で? 早くない?」  そりゃあ普通の社会人なら仕事の時間だろうけど、たまたま見たタイミングだったかもしれないし、時間はさほど問題じゃない。問題はメッセージの内容だ。 「『運命だと思う。明日会おう』だって」 「いやヤりモク丸出しすぎて」 「……でも相性99%はわりと運命かも」 「え、それで騙されんの?」  占い程度の相性診断だとしても他にはいなかった相性だし、運命と言えば運命だ。なによりタイミングが合うっていうのはわりと大事なポイントかもしれない。 「明日なら行けるし一回会ってみようかな。物は試し」 「いや怪しすぎるでしょ。絶対やばいって。潤以上にやばいアルファの匂いしかしなくないか?」 「俺運命って言葉好きなんだよね。ほら、『この巡り合わせは運命』って有名な言葉があるし」 「それメグスクの歌詞でしょ?」 「当たり! 柳くん詳しいね」 「千草がそのテンションで喋るの『メグスク』のことしかないし。いや、君って痛い目見ないと学ばないタイプ?」 「でもライブ行くのに番欲しいし、何事も始めてみないと始まらないから」 「所詮俺はベータだからオメガのことはわかんないけど、番って絶対そんな理由で決めたらダメなやつじゃないの?」  意外と心配性というか保守的な柳くんは丁寧につっこんで考え直させようとしてくれたけど、そこで授業が始まって話は打ち切り。  どちらかというと楽天的な僕は、それほど心配することじゃないと行くことに決めていた。  なにより僕にとっての最優先事項はライブに行けるかどうかだ。

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