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運命のマッチング 6

「わ」  ノックをして声をかけてすぐにドアが開き、そこに立っていた「ライトさん」はまさしく怪しいの一言だった。  黒いキャップとティアドロップの高そうなサングラス。そして顔の大部分を覆う黒マスク。  前髪がちらりと見えてるくらいしか露出のないその姿は怪しいとしか言いようがなかった。道に立っていたらまごうことなき不審者だ。  その人が部屋の入口に立って俺を迎えるようにドアを開けている。 「入って」  マスクの上小声なせいでくぐもった声が短く響き、思わず一歩下がった。予想以上の怪しさに体が勝手にたじろぐ。 「あの、やっぱり僕……うわ!?」  ちゃんと人格がわかるまでメッセージのやりとりもせず来たのはやっぱり早計だった。  とりあえずこの場は一旦引こうともう一歩下がろうとしたタイミングで腕を掴まれ、逃げることもできずに中に引っ張り込まれた。  後ろでバタンと閉まるドアの音が妙に大きく響く。 「悪い。人が来たから」  抱き込まれる形になり、すぐ傍で囁くように謝られて慌てて離れる。だいぶ飛びのいてしまったけれどこの状態なら許されるだろう。  しかし、人が来たから部屋に引きずり込むとは。姿を見られちゃいけない理由でもあるのだろうか。 「怖がらないでほしい。怪しい者じゃない。事情があってこれは外せないんだけど」  もしや逃亡者かなにかなのだろうかという疑惑が視線に表れていたのか、ライトさんはホールドアップするように両手を上げた。スタイルがいいせいでスタイリッシュな銀行強盗にも見える。 「いや、怪しいは怪しいんですけど……」 「自覚はある」  怪しいものじゃないとその姿で言われても説得力が皆無だ。本人まで認める不審者スタイル。  ただ、あまりに怪しすぎて、むしろ本当に怪しい人はここまで怪しくないんじゃないかと思えてきた。怪しさがインフレを起こしている。そもそも逃亡者が悠長にマッチングアプリを使わないだろう。  なにより、ホールドアップの体勢で淡々と話すライトさんは、妙に信用できる声をしている。聞きたくなる声質というか、好きな声によく似ているというか。  そう思うと、少しずつだけど気持ちが落ち着いてきた。  部屋に二人きりはやっぱり警戒する状況ではあるけれど、一応話が通じる理性はあるみたいだし。 「あ、あの、あのアプリ登録したばっかりでどうしたらいいかわからないんですけど」  なによりここで逃げ帰っては話が進まない。 「今日は、話すだけでいいんです、よね?」 「話したい。君のことが知りたい」  恐る恐るお伺いを立てる僕の言葉にかぶる勢いで、ライトさんが返してくる。  怪しいセリフのはずなのに低く響く声質のおかげで妙にロマンチックなセリフに聞こえてしまう。やっぱりアルファは得だ。それともこれが相性99%の効果だろうか? 「それじゃあ、話しましょう。で」  とにかくずっと立って話しているわけにはいかない。少し考えて、思い切ってライトさんに背を向けてベッドの角に座った。  本当はイスに座りたかったけれど部屋には奥のテーブルに一つしかイスがなく、そこに行くには少し抵抗があった。ドアの方を向いて座っていればいざという時に逃げられるという算段もある。 「僕はこうやって後ろを向いて振り向かないので、ライトさんもマスクとか取っちゃってください。なんか窮屈そうだし」 「……優しいな、君は」  なにより部屋の中で帽子にサングラスにマスクじゃリラックスできないだろう。こちらもその姿相手に話すのは緊張する。ただでさえアルファと二人と言う緊張しかない状況なんだから、怪しさくらいは解消したい。  それにお互いを知るための会話をするなら、せめて少しくらい打ち解けたいじゃないか。 「じゃあ、こうしよう」  それを受け入れてくれたらしいライトさんの声がして、座っていたベッドが小さく沈んだ。不意打ちの揺らぎに傾いだ体が、逞しい体に支えられるようにして止まる。  背中に触れたのは、ライトさんの背中だ。どうやら同じように角に座って背中合わせにしたらしい。 「……っ」  直接的ではないけれど、相手の体温が背中越しに伝わってきて緊張と同時に少し気恥ずかしい思いが沸く。  でも、確かに表情が見えない分これなら反応がわかりやすくていいかもしれない。  そういえば親しくなりたい相手とは呼吸を合わせるのがいいとなにかの本で読んだ。この体勢だと自然と相手の呼吸に合わせるようになってリラックスできる気がする。

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