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運命のマッチング 7

「それじゃあ改めて」  ほんの少し身じろぎの音がした後、マスクを外したのか、ライトさんの声がクリアになる。  そうなるとますますいい声で、落ち着いた低音がとても心地いい。  というか好きな声に似過ぎていて違う種類の緊張も呼び起こされた。マイクやテレビを通した声しか知らないけど、それによく似ている。  ただまあ、あまりにも突飛すぎる想像だから、これは後で柳くんに話すときのネタにしようと思う。普通に考えてあるわけがない。なんならまた、なんでもそれに繋げる特技が出たと呆れられることだろう。  そんなわけで改めて名乗りあって、当たり障りのないお天気の話から始めた。  それから僕がプロフィールに載せた好きな物からライトさんが話を広めてくれて、徐々に会話量が増え。気づけば初対面とは思えないくらい話が弾んでいた。  意外と好きな物が似ている点が多かったのはもちろん、ライトさんの話の引き出し方が上手くて最初の緊張はどこへやらという感じに調子よく喋ってしまった。  黙っていればまだオメガらしい、という自らの特徴を最初から投げ捨てた気がしなくもない。だけど思っている以上に背中合わせだと気持ちが解れることを知った。  もちろん初対面ではあるし一応わきまえてはいるから、一番気持ちが盛り上がるメグスクの話を熱弁したりはしない。いくらいいと思っても布教は強引にはしないものだ。 「それで、イズミはその年でどうして番が欲しいんだ?」  ある程度の会話を経て、少し打ち解けたからだろうか。さっきよりも声音を低めて、核心的な部分に触れられてほんの少し考え込む。   もちろんメグスクのことが大きな芯ではあるけれど、それはつまり俺の生き方に通ずるもので。 「……やりたいことを普通にできるようになるためって感じでしょうか。オメガであることでできる制限というか、ぶっちゃけヒートのせいで勉強とかバイトとかも人に迷惑かけちゃうし。……そんな理由で番相手を探すとか、怒られちゃうかもしれませんけど」 「いや、十分な理由だと思う」  こんな理由でも肯定してくれるなんて優しい。 「ライトさんは? 普通にモテそうなのになんでアプリに登録したんですか?」  厳重な装備で顔は見えなかったけど、アルファなんだ。どうせイケメンに決まってる。  声だってめちゃくちゃいいし話をリードしてくれるところも大人っぽいし、文字通り頼りがいのある背中をしているし。  鍛えているのかしっかりとした背中は多少ベッドが揺れたくらいじゃ揺らがないし、筋肉のつかない身としては羨ましい限り。  こんな人、わざわざマッチングアプリで相手を探さなくても選び放題だろうに。 「いや、それを言うなら君もだろう?」 「え?」 「そんなに美人なら嫌でもモテるだろうに。まあ俺としては登録してくれたからこそイズミに会えたから幸運だったけど」  さらりと。  本当になんのてらいもなく言われた言葉に一瞬遅れて心臓の鼓動が大きく響く。 「あ、あはは、黙っていればマシな顔とは言われますけどね」  返す声がだいぶ上擦っている。だって、まさかそんな会話の流れで褒められるとは思っていなかった。アルファって、こんなナチュラルに口説いたりするのか。余裕のある人生を過ごしている人の会話術だ。  ……どうしよう。我ながらちょろいと思うけど、不意打ちの言葉にドキドキが治まらない。  もちろんお世辞だとわかっている。というかまあ、軽口の類なんだろう。だけどそういうものにまったく免疫がないからどう反応するのが正解かわからない。  きっとメグスクのモモとかだったら「知ってる、ありがとー」と朗らかに返せるんだろうけど。  あいにくこちとらアイドルオタクだ。褒め言葉を言うのは慣れていても言われ慣れてはいない。 「黙っていれば、なんて誰が言うんだ? 俺は可愛い声を聞けて嬉しいのに」 「ちょ、ちょっとそれはキザすぎですよっ。さては誰にでも言ってるんですね? もーやだなー」 「そんな軽い男に思われるのは心外だな」  きっとマンガやアニメだったら煙を吹いている。そうじゃなくても耳が熱くなってるのがわかるんだ。背中合わせの状態で本当に良かった。 「でも、えっと、大学で同じ講義をとってるアルファの人なんか、しょっちゅう黙ってればーって言いますよ。その人、カメラマンになるって言ってて、可哀想なものを撮った方が画になるし賞に繋がるって僕を勝手に被写体にするんですよ。最初からオメガが可哀想な存在だって思ってて」 「近くにアルファが?」  触れている背中から早い鼓動が伝わってしまいそうで、自分の声で打ち消そうとつらつら考えもせずに思いついたことを口にする。  いくら焦ってるからってわざわざ潤のことを持ち出さなくてもいいんだけど。 「え? あ、はい、います。オメガの僕に対してはある意味アルファらしいアルファっていうか……同じアルファでもライトさんとは正反対で」 「イズミ」 「は、はい?」 「悪いことするから先に謝っとく」  合わせていた背中の感覚が消え、思ったよりも近い位置から声が聞こえたと思った瞬間。 「え、ライトさ……ん?」  支えを失った体がベッドに倒れ込み、見えた天井がなにかに遮られる。  近すぎてぶれるその影はたぶんライトさんの顔で、そこに焦点があった途端衝撃で目を見開いた。

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