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キスする更衣室 4
「もしかして、結構関係進んでる?」
「え、な、なんで」
「いやだって、こういうのプレゼントするって、君を所有したいって意味なんじゃなかったっけ。指輪的な」
「え、そうなの?」
「なんで千草の方が知らないの? アルファがオメガに首輪を渡すのってそういう意味だってどっかに書いてあったけど」
僕と友達になってからバース性について色々調べるようになってくれたらしい勉強熱心な柳くんは、時に僕よりオメガのことについて詳しいことがある。
首輪のプレゼント。
確かに恋人同士のアルファがオメガに渡すこともあるというけど、まだ会って二回目だ。
いや、僕の方は一方的に見ていたけれど、それにしたってそんな意味でプレゼントされるほど距離が縮まっただろうか?
……キスは、いっぱいしてしまったけど、あれはまあ事故というか、きっとモテる人のスキンシップのようなものだろう。そして僕が特別ちょろいだけだ。
「あくまで俗説でしょ? コーヒーのお礼って言ってたし」
「どれだけ高級なのおごったんだよ」
確かに見合っていない。そりゃあもう全然。でも相手はスオウだし、と僕は妙な納得の仕方をしてしまうけど、柳くんからしたら不思議に決まっている。
しばし僕の手にあるプレゼントを眺めながら考え込んで、けれど切り替えるように一つ頷いた。
「まあいいや。それにしたってブランド物のチョーカー初めて見た。着けてみたら?」
「でももったいなくない?」
「せっかくもらったんだから」
飾っておくのが一番いい気がする。
こんないいもの持っているだけで緊張するし、あかりさんからのプレゼントなんて考えると宝にすべきだ。
けれど柳くんの言い分ももっとも。
着けるためにくれたんだろうし、プレゼントされたものだから一度は使うのが礼儀。そう自分に言い聞かせて、いつものを外して着け替えた。
「これはとてもやばい」
その瞬間にわかった。これはとてもいいものだ。
驚くほど着け心地が良くてしっくりくる。それが逆に落ち着かない。着けてないみたい、は言い過ぎだとしても、気にならないことが気になるくらいにはフィットしてる。
なにこれ。こんなものがあるのか。
「うん。服でちょっと見えにくいけど、千草の華奢な首によく似合ってる。かっこいいし普通にオシャレ。あとめっちゃ高そう」
「着け心地でわかる。肌触りもいいし全然きつくないし」
「うん、すごい高そう」
「強調しないでほしい。動けなくなるから」
高そうというのは今身をもって体感している。たまに芸能人がなにかのイベントで億越えのジュエリーをつけているのを見るけど、気分はそんな感じだ。
ある意味爆弾を付けられているかのように慎重になるし緊張する。
「写真撮って相手に送ったら? ちゃんと着けてますよって、せっかくだから見せなよ」
「うーん、でも恥ずかしいんだよね」
「いやいや、この前のプロフ写真の方が恥ずかしかったから」
それは正論。
あとその発言でまだあの写真を変えていないことを思い出した。いっそのことあかりさんが言っていたみたいにアカウントごと削除しようか。
「柳くん、写真お願いしていい?」
ともあれここは慣れない自撮りで失敗したくないから、僕より器用で優しい柳くんを頼る。
「この前みたいに事故りたくないから、写真撮ってほしい。首から下だけでいいから」
「だからなんでそういう裏アカっぽい写真の発想出てくんの?」
呆れ半分文句を言いながらも僕のスマホを受け取ってくれる柳くんに甘えて、隠していた首元をできるだけ見せるように写真を撮ってもらう。
無駄にエロイんだよな、という感想をもらいながらも、僕が撮るより数倍マシな写真を手に入れた。自撮りが向いていないことも確認できた。
「送っといたら」
「うん。お礼と報告を兼ねて送ってみる」
「いいね。喜ぶんじゃない?」
さっき交換したばかりの連絡先。
蘇芳燈の名前の迫力が強すぎてぐぅと唸ってしまったから、登録名は「あかりさん」に変えておいた。万が一スマホを落としてこれを見られたとしても、スオウとは気づかれにくいだろう。
緊張しながらもとりあえずお礼と写真を送る。何度か推敲して短くしたからあっさりしてるけど、くどくどと長いよりかはいいだろう。
それで一仕事終えた気になっていたんだけど。
恐るべきことにあかりさんのサプライズはまだ続いていた。
少しして返ってきたあかりさんからのメッセージに、僕は本気で腰を抜かして危うくスマホを放り投げるところだった。
あかりさんからの返信には、首元を強調した自撮り写真と一緒に一言。
「俺もお揃い」
……この人は、絶対に僕を殺す気だ。
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