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水が繋ぐ 3

「せっかくだから見にいくか」 「はい」  頷いて、立ち上がろうとすると目の前に手が差し出される。  まるでダンスに誘うかのような優雅な仕草。ありがとうございますと手を借りて立ち上がると、そのまま握られた。そして離すことなく歩き出すものだからどうしようもなく意識が手に集中する。 「あ、あかりさん」 「ん?」  すごく自然に手を繋いでいる。当たり前に、手を繋ごうとして繋いでいるかのような堂々とした様子だ。なんなら僕に呼びかけられたことが心底不思議そうで、その返しに言葉を飲み込んだ。  メグスクはイベントでも握手会なんかの接触系はないから、こうやって手を握るのは初めてだ。しかもすんなりと指を絡められていて、いわゆる恋人繋ぎの繋ぎ方で。  びっくりして振りほどくタイミングは過ぎた。今無理やり離すのは失礼な感じがする。 「あの、誰かに見られたら」 「大丈夫」  良いものなのか、あかりさん的には。  さすがに水族館で手を繋いで歩いていたら色々誤魔化しようがないのではと心配する僕をよそに、簡単に言い切られてしまった。あまりに簡単に断言するから、それなら大丈夫なんだろうと納得してしまった。  でも、手を繋いで水族館を回るなんて、本当にデートじゃないか。いや一応最初からデートなんだけど、あまりにデートすぎやしないか。  本当に今さらの現実におののいて、じんわりと手のひらに汗をかいてきた。たぶん手のひら越しに緊張が伝わっている。  イメージよりも手が大きい。ごつくないのにしっかりしていて、頼もしくて、理想の男の手って感じ。すごい。推しの手が自慢したいほど最高の手だった。また好きなポイントが増えてしまう。  しかしてこれはスオウの手なのかあかりさんの手なのか違いなんかないのか。 「わっ」 「おっと」  あまりに指先までかっこいい手に集中していたせいだろう。足元がおろそかになっていたらしく、なんでもない隙間に足を引っかけた。  転ぶ、と思う暇もなく余裕ある動きで抱きとめられて、気づけばあかりさんの腕の中。よろめくことなくしっかり受け止められた。 「暗いから気をつけて」 「かっ……」  その上で大人な微笑みを向けられてときめかない人間なんかいるものか。   思わず心からの「かっこいい」のため息が洩れそうになって、慌てて飲み込む。それから一呼吸おいて、そっと胸を押して距離を取った。 「ありがとうございます。気をつけます」  また手を繋ぐことになるとぐるぐるとした思考が始まってしまうから、とさりげなく離れようとしたんだけど。 「訂正」  けれどその腕ごとまた抱きしめられて、離れた以上に密着した。まさに密で着。 「俺がいる時には油断してて」  そして甘い声での囁きに、色んな回路がショートして力が抜けてしまった。  これはもう新手の詐欺に違いない。スオウ詐欺に引っ掛かって、甘い言葉にころっといったら最後、身ぐるみ剥がされたあげく丸められてぽいっとされてしまうんだ。  もうこの際それでもいいかもしれないと、改めて手を引かれて歩きながら思った。  本当に運命なのだとしたら、このまま流されたって行きつくところに着くのかも。

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