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水が繋ぐ 5

「えええ、あかりさんが可愛い……ドルフィンって書いてあるTシャツ着てる……っ」 「そっくりそのまま返す」  同じものを二枚、サイズ違いで買ってるんだからデザインは一緒。だけどあかりさんが着ているとなると、ダサかっこよさがすごい。  普通の水族館の楽しみ方となんだか違っていて、それが特別な感じがして楽しい。 「……それ、してくれてたんだな」  ふと、驚くように目を丸めたあかりさんは、すぐに表情を緩めて自分の首を触る仕草をした。  そうやって促されて気づいたのは首にしていたチョーカー。この前あかりさんからもらったものだ。  いつも着けているものより断然高価なものだからどうしようか迷ったけど、せっかくもらったものだからと思い切って着けてきてみた。車に乗り込んだ辺りまでは意識していたんだけど、違和感がなさ過ぎてすっかり存在を忘れていたんだっけ。 「あ、は、はい。あの、すごく着け心地がいいです」 「良かった。写真で見た時も思ったけどすごく似合う。可愛い」 「あ、ありがとうございます……。あかりさんが着けた方がかっこよかったですけど」 「泉の方が断然いい」  まずい。あまりにフィットしすぎていて、隠すのを忘れていた。さっきまではまだ服で隠せていたけれど、Tシャツになったことで首元が晒されて、チョーカーがむき出しになっている。  あかりさんだったらただのオシャレアイテムに見えるだろうけど、僕の場合はオシャレぶっているオメガにしか見えない。だから慌ててマンタタオルをかけて誤魔化すように隠した。  気にしすぎかもしれないけれど、いつ誰に見られているかわからないし。 「あっと、じゃあついでにこれも」  と、ポケットから取り出されたのは見覚えのあるイルカのキーホルダー。さっきのタオルと一緒に買ったのか。 「あれ。これってもしかしてあのプロフのキーホルダーですか?」 「よく覚えてるな、そんなの」 「この人悪い人じゃないのかもって思ったきっかけなので。そっか。ここのだったんですね」  なんだかんだ言ってだいぶお気に入りの場所みたいだと微笑ましく受け取ったキーホルダー。手にして少しだけ違和感を覚えたけど、すぐその理由に思い当たった。  そっか、向きが違うんだ。  ただの飛び跳ねているイルカのデザインかと思ったけど、こうしてみると意味がわかった。二つ合わせるとハート型になるんだ。 「……あかりさんって思った以上にロマンチストでお揃い好きですね」 「泉とお揃いにしたいだけ」  合わせてハートになるのはここの趣味だとしても、それを揃えたいとくれるベタさはあかりさんだからこそ余計にギャップで可愛く思えてしまう。  意外とペアルックとかも楽しめる人だったり。そんなことを思えば、その場しのぎのはずのTシャツもドキドキアイテムに思えてきた。  いや、さすがにこのTシャツは意図して着たものではないけれど、そういうのがありなのかもと言う考えが生まれるだけで面白い。  スオウのイメージが無理やり作られたものじゃないのはわかっているけれど、それにしたってギャップがすごい。スオウはかっこいい人、あかりさんはかっこよくて、少し可愛い人。その発見はなんだか特別で、アルファが怖いだけの人じゃないという証明みたいだった。  結局、このままの格好じゃどこも入れないからと水族館に併設されたレストランで夕食を済ますことになった。お揃いのイルカTシャツで隣のレストランでご飯。どれだけ浮かれたイルカ好きなのか。  しかもせっかくだからと特別メニューの水族館ならではのものばかり頼んでしまったから、とても可愛らしい夕飯になった。  高級なレストランで食事するシーンは幾度とテレビで見てきたけど、この光景は初めてだ。どうやら今日ギャップの一日らしい。  ……いいのかな、このまま好きになって。  もちろんスオウのことはずっと好きだけど、あかりさんとしてちゃんと好きになっていいんだろうか。

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