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我が家は色々ありすぎる 1
なんで誘ってしまったのかと家にあかりさんを入れた直後に後悔した。
だって僕の家だ。メグスクのファンの、僕の家だ。
たとえば壁にポスターが貼っていたり、大々的にグッズが置いてあるわけじゃないけど部屋の中には確かに存在する。それを見られたら僕がファンだとバレる。
いや、いつかバレるとしても今は一番ダメなタイミングだ。今はファンとしてじゃなく一人の人間として心配をして家に……もちろんファンとしても心配なんだけど。
と、そんなことを頭の中で早口に言い訳しながらびしょ濡れのあかりさんを風呂場へ誘導する。なにより先にすべきことはこれ以上体を冷やさないこと。
「早くシャワー浴びていってください! 風邪引いたら困りますから」
「それは泉も同じだろう。……一緒に入るか?」
「真面目な顔で冗談言わないでください!」
「一緒に温まった方が早いかと」
両手を広げてウェルカムのポーズで待ち構えるあかりさんに冗談の様子がないのが怖い。そりゃああかりさんは見られて恥ずかしい体はしていないだろうけど、そういう問題じゃない。
「正直言うと部屋を片付けたいので先に入ってもらいたいです。僕はタオルがありますし」
と、取り出そうとしたタオルこそメグスクのグッズで、慌てて渋るあかりさんを風呂場に押し込んだ。
本当に風邪を引かれちゃ困る。
一応気持ちは伝わったのか、すぐに服を脱ぐ音が聞こえてきて慌ててその場から逃げる。小さくても脱衣所のある風呂で良かった。
こっちはこっちですべきことがあるんだから余計なことは考えずに動くべきだ。
濡れた服を脱ぎ捨て部屋着に着替えてから違うタオルで頭をがしがし拭きつつ部屋を見回す。グッズらしいグッズは置いていなくとも、普段使いしているタオルやシャツを見えないところに押し込み、怪しいものはクローゼットへ。ついでに部屋の掃除も軽く済ませる。チリ一つないという潔癖の家ではないけれど、汚くはないはず。
見回して、それでも落ち着かずに狭い部屋を歩き回り、そしてあかりさんに濡れていない服をと思い当たった。
あかりさんに自分の服を着せるのか? 僕のを?
恐れ多すぎると頭を痛ませたものの、濡れた服よりはマシだろうと悩んでスウェットをそっと置いた。できることなら新品の服を今から買いに行きたいけれど、今からすぐにあかりさんに似合う服を用意できるとは思えない。だからってツアーTシャツを着せるわけにもいかず、ここは妥協するしかない。
そこまでの逡巡を、短い間に終えて、なんとかあかりさんがシャワーから出てくるまでに用意を終えた。乾燥機なんて立派なものはないから、濡れた服はそのまま持って帰ってもらうしかないのが申し訳ないけれどこればっかりは仕方ない。
「ありがとう、温まった。服も、わざわざ悪いな。泉も早く」
「あ、僕は大丈夫です。着替えましたし。それよりコーヒー飲みますか? インスタントですけど」
シャワー後のあかりさんはさすがにセクシュアルで、そのくせ着ているのは僕のスウェットで、アンバランスさにドキドキしてしまう。雑誌でこういうシチュエーションを見た時は普通にかっこいいぐらいにしか思わなかったのに。
本物の迫力だろうか。今さらそのオーラに圧倒されてしまう。
「泉、こっち」
しかもその人が少し眉をしかめて呼ぶものだから、カップを持ったまま傍に寄るとぎゅっと抱きしめられた。
「体が冷えてる。ちゃんと温まった方がいい」
「は、はい……」
体温を測るようなハグとはいえ、突然抱きしめられたら平然としていられるわけがない。驚いた心臓がバクバクと激しく鳴り出す前に一歩引いてその体から離れた。
「じゃ、じゃあちょっとだけ」
「別にベッドの下なんか漁ったりしないから、ゆっくり入っておいで」
「それは本当にやめてくださいっ」
「おや、なにかまずいものが隠してるとか?」
「な、ないですけど」
「ウソだよ。じっとしてる。早く温まっておいで」
本気で冗談にならない冗談を言うあかりさんに悲鳴じみた声を上げてしまって笑われた。本人はよくある冗談のつもりだったんだろうけど、今の状況だとシャレにならない。もちろん見つかるのはエロ本とかそういうものじゃなく、メグスクのグッズだ。本人に見つけられたらエロ本どころのダメージではない。
それでもあかりさんは譲ってくれなそうだったから、駆け込むようにシャワーを浴びにいった。本当にやるような人じゃないだろうけど、ゆっくりなんかしていられない。
結局烏の行水よりも素早くシャワーを浴びて飛び出てきたら、違う意味で腰を抜かしそうになった。
ものすごく今さらなんだけど、推しが自分の家にいる……。
一度目を離すことで気持ちがリセットされてしまったのか、はたま少し冷静になったのか、改めてこの状況のおかしさに自分の判断をつっこみたくなる。
本当に、なんで家に呼んだんだ。絶対早いところ家に帰ってもらってのんびりとシャワーを浴びて休んでもらった方が良かっただろうに。
見慣れた家の景色に推しがいるのがものすごい違和感だ。
ただただ、普段から見えるところにグッズを飾ってなくて良かったとだけは思った。
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