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我が家は色々ありすぎる 5

「これって、千草だよな?」 「……え」  そして潤はなんの前振りもなくスマホの画面を見せてきた。  そこに映っていたのは遠くから撮られた隠し撮りの写真。  イルカのTシャツを着て笑っているあかりさん。その隣には当然僕がいる。僕の方だけ顔がスタンプで隠されているけれど、明らかに今日の水族館での写真だ。 「今これ、メグスクのスオウのプライベート写真ってネット上で出回ってて、これって千草が前に騒いでた男じゃんと思ったら隣にいるの明らかにお前だからさ。そりゃ気になるじゃん?」  どうも元ネタは誰かのSNSらしい。 『待ってスオウいたんだけど! イルカのTシャツ着てめっちゃ笑ってた激レア 友達もめっちゃ顔良くてやばい 一般人っぽいから一応顔隠しとく』  そんなファンっぽい女の子の文章がついている。  確かに、元々変装していたあかりさんが水に濡れて服を着替えたのがこのタイミング。サングラスも取ってしまったし、シンプルなTシャツ姿だからそりゃあもう思いきりスオウの顔をしている。普通に人のいる水族館だったらもっと騒がれていたかもしれない。  でもそうか。あのとき写真に撮られていたのか。まったく気づいていなかった。 「ちょっとしか見えてないから普通は気づかないかもしれないけど、この首輪それだろ?」  マンタのタオルでほとんど隠れているけれど、よく見ればほんの少しだけ首輪が覗いている。しかもあかりさんにもらったものだから見間違いというにはなかなかないデザインで。  目の前で指摘されると否定しづらい。そしてそれはこの写真が自分だと肯定したも同然。 「そんでもって、アイドルのアルファと仲良く遊びに行ってる千草くんの、この高そうな首輪は誰からもらったのかな?」 「こ、これは……」  無遠慮に首輪に触れられそうになって、避けるために一歩下がったら腕を掴まれ逆に引き寄せられた。 「逃げんなよ。本題はここから」  恫喝するように声を低められ、体をこわばらせた僕を見て潤は口元を緩める。 「で、たまたま近くを通りかかったから、一応これのことを教えておいてやろうと思ったんだけどさ。そしたら見たことある男がいたから反射的にシャッターを切っちゃったわけよ」  ほら、と見せられたカメラの液晶モニターにはあかりさんが映っていた。この家のドアの前で、中を覗き込むようにしているから周りが暗くてもしっかりと顔が映っている。 「なんでメグリスクセのスオウが、こんな格好でこの家から出てきたのかなってのをちょっとお聞きしたくて」  ピ、ピ、とボタンを押すたび進んでいく写真の中で、あかりさんが家から車に乗るまでが細かに押さえられていた。 「いつの間に家に呼ぶ仲になったわけ?」  にやつく口元がまるで獲物を前に弄ぶ肉食獣のよう。  たぶんさっきのSNSの写真を見て家を張っていたんだろう。家に入るところはひどい雨だったから撮れなかったみたいだけど、雨が上がった帰りは見られていたらしい。  もちろんこれだけじゃなんの写真でもない。あかりさんが自分の家じゃないところから出てきたところで、僕は別に有名人でもないし、綺麗な女優さんやモデルさんでもないんだからただのスオウの盗撮に過ぎない。  とはいえ、やましいことは存分にある。特に今日は。 「べ、別に普通に友達として」 「俺は別になんとも思ってないんだけどな? ただ、普通はどう思うんだろうな。人気アイドルのアルファと、首輪付きのオメガが仲良く出かけたり家にしけこんだりしてる写真を見たら。千草って黙ってりゃいける顔してるし、ただのお友達と思ってくれればいいんだけどな」  男同士だしSNSでの写真の時のように友達として通すのは決して無理な話じゃないはずだ。  だけど、僕はオメガだ。  アイドルでありアルファであるあかりさんと二人きりで会っているのはあまり好ましい情報ではない。そもそも出会いがマッチングアプリだし。 「……なにが目的?」 「なんにも?」  なにより、潤がこの話を僕に持ってきたことが最大の問題だ。  わざわざ写真にまで撮って見せに来たのならなにか目的があるに決まってる。  そうやって窺う僕に、潤は気安く肩をすくめてみせた。

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