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我が家は色々ありすぎる 6
「別に俺はスキャンダルで食っていきたいわけじゃないし、これはたまたま撮れただけで大した写真じゃないし。だろ?」
真意が見えず、ただその目から答えを探そうとする僕を笑って、潤は掴んだ僕の肩をバンバン叩いた。
「とりあえず種付けだけされて捨てられないようにゴムだけはしといた方がいいんじゃん? って忠告だけしとくわ。その年でシングルで育ててくのはしんどいだろうし」
「……なにが言いたいの」
「怒んなよ。わかるよ? 千草もせっかくオメガに生まれたんだから、遊びでいいから芸能人と一発ヤりたいだろうって。そういうもんでしょ? オメガの本能って。わかるわかる。でも身の丈っつーか身の程わきまえた方が無駄に傷つかなくていいんじゃないのって。思うわけ。優しい俺としてはさ」
なにもわかっていない潤がアルファを振りかざしてオメガを見下す。それがあまりにもナチュラルですらすら語られるものだから、呆気に取られてなにも言い返せなかった。
ここまで偏見がすごいと逆にもう反論さえ出なくなる。
潤の中には、アルファとオメガが同等な立場で付き合うと言うことはないらしい。それとも回り回って芸能人への偏見なのか。
「んじゃ、報告終わったし帰るわ。実際のとこ、アイドル様の秘密の逢瀬写真撮れたから自慢したくなっただけ。じゃあな、おやすみ」
それだけ言うと、潤は踵を返してあっという間に帰ってしまった。
本当に、写真を撮ったこと、そしてあかりさんと一緒にいたのが僕だと自分が知っている、ということをアピールしに来ただけらしい。
もちろん「だけ」で終わる話ではなく、確固たるものではないけれど十分嫌な事実と証拠を握られたのを思い知らされた。よりにもよって潤に、僕とあかりさんが会っているのがバレた。なんて厄介な。
もしも次にもっと決定的ななにかを撮られて、雑誌に売られたりネットに流されたりしたら?
潤の目的がわからないけど、今までの言動からして、僕が嫌がるからというだけでそれぐらいしそうな雰囲気はある。そうなったらあかりさんに、メグスクに迷惑がかかる。
……ああ、やっぱり僕が間違っていたんだ。
僕みたいなのがあかりさんみたいな人に近づいちゃいけなかったんだ。
こんなの迷惑にしかならない。こんなことに巻き込んでいい人じゃない。
ファンだからこそ、推しには絶対迷惑をかけるようなことをしちゃいけないんだ。
「やっぱりこれ返そう……」
もらった首輪は高価すぎて僕の首には合わない。僕のうなじにはそんな価値ない。
これがあることであかりさんが面倒に巻き込まれるのなら、これを返してもう二度と会わないようにしよう。
ちょうどいい。ライブに行かずにお茶の間でだって楽しめる。
今までとなにも変わらない。普通のファンに戻るだけだ。
もし次に会う時があるのならその時返そうと決めて、僕はあかりさんからもらった首輪を外した。
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