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秘密と熱の夜 3
どうしようもなくなってグラスをちびちび傾けていたら、同じように足をソファーに乗せたあかりさんが足の指先で僕の足をつついてきた。
「時間あんまり作れないから、一回一回を濃密にしていかないと」
「……十分濃密です」
最初に会った時も、朝カフェも水族館も今回も。全部が全部、他とは比べ物にならないくらい濃密な時間を過ごしている。
確かに会った回数は多くないし、時間だってそれほど長くないけど、距離感でいったら十分近い。
「こうやって話すようになってからはまだ日が浅いけど、少しは俺のこと知ってもらえたかな」
「……どうしてなのかわからないくらい優しくてかっこいい人だっていうのは十分わかりました」
「それは泉にとって俺と真剣に付き合う指標になるか?」
伏せていた視線を上げさせるように顔を覗き込まれて、「えっ」と固まった。
「改めてちゃんと言う。泉、好きだ。番を前提に付き合ってほしい」
今まではなんとなくその辺のことはぼやかされていて、そういう関係のことははっきりと言葉にされなかった。だからここまで流されてきてしまったけれど、いざとなるとあかりさんは思いきりが良かった。
突然の告白に、一瞬で乾いた喉を動かすため、何度もつばを飲み込む。
そうだ。今日はその話をしにきたんだった。
「あの、実はその話なんですけど」
「泉は俺のこと嫌いか?」
「まさか! 大好きに決まってるじゃないですか!」
残りのワインを一気に呷ってからグラスをテーブルに置き、思いきって本題を切り出そうとしたけれどあかりさんの言葉でいきなり大カーブをかました。
ちょっと待って。今すごく勢いで答えた。
スオウの顔で嫌いかと聞かれれば、当然ファンの性として違うと返す。当たり前に好きでしかないから勢いだけで反論したけれど、今はタイミングが違う。
「あ、いえ今のはですね」
「じゃあ」
ラブはラブでもこの場合意味が違う。
スオウラブ。だけど今問われているのは一人の人間あかりさんに対しての好意のことで、そこのところを説明しないとややこしい。
だけど真正面からの好意を受け止めたあかりさんに、そんな違いはわからない。
「これは泉なりの『覚悟』って、思ってもいいってことか?」
こちらへと身を乗り出し、これ、と示すように触れられたのは僕の首。
首輪がない分直接触れられたそこに、「覚悟」という電流が走る。
そうだった。今日は首輪をしていない。なにかあった時にうなじを保護する首輪。それを今、外している。
「こ、こ、こ、これは違うんです!」
「違う? でも、アルファの俺のもとに首輪を外して来るって」
「あっ……」
言われて気づく。むしろなんで今まで気づかなかったのか。頭の中の柳くんが「バカなの?」と冷たい視線を向けてくる。バカなんだと思う。
普通、アルファの人の前で保護する意味の首輪を外すってことは、噛んでもいいよ、というサインだ。それはつまり番になるために自ら抱かれる覚悟を決めたのと同等の行為ということで。
「そ、そういうエッチな意味じゃなくて、これには理由があって!」
「正直、泉が首輪を外して家に来てくれたことで、受け入れてもらえるんだとすごく期待したんだけど」
本当に正直な気持ちを教えてくれるあかりさんの声がわかりやすく沈んでいる。
だから最初の時に言葉を詰まらせていたのか。僕の首を見て、首輪がないことに気づいたから。その時にあかりさんは僕がそういう覚悟をしてきたものだと勘違いして、今に至っているらしい。
じゃあずっと、僕はそういうサインを出し続けている人だと思われていたのか。ここに来た時からずっと!
「ち、違くて、この前水族館に行った時に写真隠し撮りされてて、だから首輪してたら、オメガと一緒に二人で出かけてるってあかりさんに迷惑かけると思って」
ずっと、仕事のことについて深掘りされたら僕の方が困るからそこには触れないで来た。だけど今はそれどころじゃない。
カラカラの喉とパニクった頭から必死に言葉を絞り出して理由を語る。
アイドルにスキャンダルは禁物。僕がその理由の一端を担うなんてあっちゃいけない。だから少しでもオメガという外から見た証拠をなくしたくて首輪をしなかったんだと上擦る声で説明した。
「そんなことまで考えて……」
するとあかりさんは驚いたように口元を押さえた。
勘違いだと言うことは飲み込んでくれたらしいけど、思っていた反応と違う。
「やっぱり君の全部が好きだ。俺には君しかいない。なあ、泉。今すぐ答えがほしい」
どうやら僕がそんなことを考えて行動していたということが意外すぎたらしい。普通はしないだろう。むしろあかりさんと出歩けるのなら見せびらかしたくなるのかもしれない。
でも僕はそれよりも一ファンであることが大前提で、だからこそその態度があかりさんにとって特殊だったようだ。
より熱のこもった視線とともに手を握られ、告白の答えを迫られる。
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