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秘密と熱の夜 4

「ダ、ダメなんです。僕なんかそういう風に言われる人間じゃないし、釣り合うとか釣り合わないとかそういうレベルの話でもないくらい、会ったのが間違いというか。それにあかりさんには絶対もっと他のいい人が見つかると思うんです」 「俺が、こんなに泉がいいって言ってるのに?」  そもそも最初の時にちゃんと間違いでしたと断っとくべきだったんだ。  実際問題、付き合おうだとか考えたこともないただのファンが流されてここまできてしまったのがおかしいわけで。  僕はただ、お金を出してステージが見られれば、それで満足な人間なんだ。 「泉を欲しがっているばっかりだから本気に思われてないのだろうか?」  それなのにあかりさんは、話が進まないのは自分の気持ちがちゃんと伝わっていないからかと表情を曇らせている。 「泉は、少しでも俺が欲しいと思ったことはない?」 「欲し、い……?」  あかりさんを欲しい。そんなの、それこそ考えたことがなかった。だって、望んで手に入るようなものではないし、そもそも元から望むようなものじゃない。  でも、少しもないかと言われれば、違うのかもしれない。いらないかと言われたら、そうじゃないのかもしれない。  だってあかりさんとのキスは気持ち良くて、いらないなんて思ったことは一度もなくて。  それは僕がちょろくて、快感に弱いから流されてるだけだと思っていたんだけど……。 「嫌なら嫌と言ってほしい。じゃないと手放せない」  すぐ触れられる距離の熱っぽい視線で告げられて、嫌だとは口が動かなかった。 「嫌じゃないなら……勘違いを『本当』にしないか?」  そのまま体重をかけられ、ソファーに沈められ囁かれても、逃げたい気持ちは湧いてこない。  今日は首輪を返して、それでこの関係を終わりにしようと思っていたのに。あかりさんの迷惑にならないためにも、そうするべきなのに。 「んっ」  呆気なく唇を塞がれ、抵抗もなく熱の侵入を許してしまう。だけどその時メガネがぶつかって、ほんの少し体を起こしたあかりさんがちょっとだけ照れ臭そうにメガネを外し、首筋へと唇をずらしてきた。 「ひゃ、あ、そこ、くすぐったい……っ」 「ここ、特別敏感だよな」 「あ、あんまり、舐められると……あのっ、変な気持ちに、じゃなくて、酔いが、酔いが回ってしまうので」  首の筋をなぞるように舌を立てられ、ぞくぞくとした痺れに声を震わせる。酔いのことは嘘じゃない。頭が上手く働かないくらいには酔っているし、そこをあまり刺激されると体が熱くなってしまう。  だからやめてもらおうとしたけれど、あかりさんは身を伏せたまま。 「じゃあ今日泊まってくか?」  それどころかシャツの肩口を引っ張ってより首筋を露出させると、そこに音を立ててキスを落とし始めた。 「泉が嫌じゃないなら、今日は帰らないでほしい」  ただのお泊り会じゃないことはあかりさんの態度が明白に表していて、だからこそ勘違いできずに即答できない。  さすがに僕だってその意味くらいわかる。  わかるから、心臓がバクバクとうるさすぎて、頭がなにも働かない。  だって帰らなかったら、僕きっと今夜……。 「あ、あかりさん、僕……!」  ピンポーン  ピピピピピピンポーン 「……」  どういう答えをしようとしたのか、自分でもわからないうちに意識が全部そこに持っていかれた。  今の今までここにあったどろどろのハチミツのような空気が一気に霧散する。  ピンポーンピンポンピンポーン 「……あかりさん?」  荷物の配達という感じだとは到底思えない。時間も時間だし、なによりその鳴らし方は怒られるやつだ。  というかこの鳴り方は、エントランスからのインターホンではないのでは?  部屋番号を押して呼びだす方じゃ、こんな小刻みな鳴らし方はできないはず。それなら鳴っているのは家の前の直のインターホンか? 「居留守を使いたいしそうするべきなのはわかっていても、出ないと面倒なのもわかっているんだ……」  さっきまでの大人の余裕はどこへやら。  夏休みが終わる日に宿題を抱えた小学生みたいな悲痛な色をにじませて、あかりさんはのっそりと起き上がった。そして重い足取りでそのチャイムに応えるべくインターホンの元へ向かう。 「悪い、泉。とんでもない邪魔が入った」  カメラを見て大きくため息をついたあかりさんは、渋々といった様子を隠すことなく玄関へ鍵を開けに行き。

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