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秘密と熱の夜 6
「……いえあの、もちろんわかってますけど、プライベートはプライベートだし、本人が言うんじゃなかったら仕事の話はしない方がいいかと」
「君は最高か?」
「マジで知れば知るほど羨ましいな」
「でもその様子だと、寝耳に水って感じっぽいんだけどまだバラしてなかった?」
「……今全部バラされた」
「ほほぅ」
僕をテディベアのように抱っこしたまま放そうとしないあかりさんは、どうやら表情を見られたくないらしい。確かに抱えられたままだと顔が見られないんだけど、それはそうとして恥ずかしいから逃げたい。
この様子だと、どうやら全員僕がスオウのファンだとわかっていたらしい。あかりさんはその上で黙っていたと。
「そっかー。いやー本当こんなむっつりですけど、ぜひともスオウをよろしくね。末永く。なにとぞ」
「うち一番の変態むっつりだから大変だろうけどな。こいつを扱えるのはたぶん君しかいないから」
なにがどうしてそうなっているのかはわからないけど、二人はご機嫌でよろしくよろしくと僕に向かって微笑む。
なぜかものすごい勢いで認めてもらってるけど、僕はまだ最初の衝撃から立ち直っていない。
そしてこちらはこちらでまだ認められないことがある人がいて。
「むっつりってなんだ」
ものすごく不本意そうなあかりさんに保護されながら、確かにむっつりではないかなと思い返す。わりとオープンじゃないだろうか。
「むっつりじゃなかったらなに」
でも不本意なのは言ったモモの方もだったらしい。なんならいっそ怒っているようにも見える。
いつの間にか座って我が家のようにくつろいでいるキキョウの横で、仁王立ちしたままモモがぷりぷりしてる。
「そもそもお前が、ちーちゃんが全然直接的な連絡先書いてくれなくて知り合えないっていうから、せっかくアルファとオメガなんだからマッチングサイトにでも登録してたらそのうち会えんじゃねーのって言ったのオレじゃん⁉︎ オレがキューピッドじゃん! お礼は?」
「アドバイスはありがとう。だけど全部バラした罪が重い」
「そもそもそれ冗談で言ったの真に受けてマジで登録したの十分むっつりだろ!」
「まあ、ファンに一目惚れしてる時点で十分むっつりアイドルだしね」
あかりさん、今さら僕の耳を塞いでもすごく遅い。
ものすごく重要な謎を、今モモの怒りに任せてさらりと暴露された。
なぜあかりさんがマッチングアプリに登録していたのか。一番初めに引っ掛かったよくわからなかった理由が、メンバーぐるみの作戦だったということを聞いてしまった。
なにしてんのこのアイドルの人たち。そしてなんでまんまと引っかかってるんだ僕は。
「この際ちーちゃんにも現実を知ってもらうといい。こいつのことクールだと思ってるだろうけど違うから。運命の番の話とかロマンチックなことばっか語るのキャラ違いすぎて雑誌だと切られてるから無口みたいになってるだけだから!」
「ス、スオウはクールで大人の男なのでファンの夢を崩さないでください……」
「それはごめん!」
「大丈夫だよ。ちーちゃんが絡んでなければちゃんとしてるから」
暴露が本当に暴露で耳を塞いであかりさんの胸に顔を埋めると、モモに潔く謝られた。そしてキキョウに慰めるように頭を撫でられる。キキョウママだ。
「ちーちゃんがスオウのファンだというなら、スオウはファンのファンだよ。しかも重めのね」
「痛めとも言う」
「やばめでもいいな」
「好き勝手言いやがって……」
流れるような会話のテンポはやっぱりメグスクのテンポで、あかりさんの声も呆れながらも本当に怒っている感じではない。
そうか。本当にみんな全部知っていたのか。
「さーてちーちゃんの顔は見たし、一通り暴露したし、飽きたから帰るか」
「は、まさか本気でそれだけのために来たのか……?」
「「うん」」
一通り、という言葉通り、これ以上ないんじゃないかというほどすべてを一気に伝えてくれた二人は、あっさりと帰り支度を始めた。
驚くことに、なにか他の重要な用で来たわけではないらしい。
「そろそろ正体バレてドン引きされて逃げられるんじゃないかって心配になったから二人で圧かけにきたんだよ。仲間だからね、俺ら」
「余計なお世話だし、そうなったら原因はお前らだよ。帰れ」
しっしと手で払うあかりさんに、薄目を開けて窺うと本当に二人が帰っていくところで。
「じゃあねちーちゃん、また今度。かっこつけマンだけど愛想尽かさないでやって」
そこだけライブの終わりみたいに笑顔で揃って手を振って、呆気なく帰っていった。
立つ鳥跡を濁さずといった去り際ではあるけれど、実際なにも残っていないのにありとあらゆるものがぐしゃぐしゃだ。
あれもこれもと色んな疑問がすっきりしたのに、こんなにすっきりしないってどういうことだ。
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