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秘密と熱の夜 7
「……知ってたんですか、僕がファンだって」
「むしろ、知っていたから会った」
二人が去ってしばし、のそのそとあかりさんの腕の中から抜け出して呻くように問う。すると即答された。
あの時あかりさんは「運命」だと言っていたけれど、ある意味本当にそうだったのか。僕の思っていた意味とは全然違ったけれど、狙った結果が本当に現れたのなら、確かにそれも運命だ。
「嫌いになったか?」
「嫌いになんてなるわけないじゃないですか」
顔を覗き込まれて聞かれて、こればかりはこちらも即答。嫌いになるという選択肢は最初からない。
「ただ死ぬほど恥ずかしいです。僕、必死で隠してたのに、とっくに知られてたなんて……」
「悪かった。でも泉のことだからそうとわかったら今みたいに恥ずかしがって逃げてしまうと思って」
「……なんでわかるんですか」
「もらった手紙は何回も読んで、そこからアピールは感じ取れなかったから。だからこっちも偶然を装った。本当は街中で偶然会うのが理想だったけど、行く店とか言っても泉全然うろついてくれないし」
「そんな理由で普段行く店バラすアイドルいます?」
「アイドルだって人を好きになったら必死にもなる。……それに、ファンとしての泉にスオウとして会っても、泉は恋愛としては考えてくれなかっただろうし」
どうやら本当に僕のことをわかられているようだ。
ファンレターにはスオウの仕事のことを褒めるばかりで自分の話はほとんどしていない。もちろん少しは書いたかもしれないけど、それだってどんな人間かわかるほど書いたつもりはないのに。
そんな風に人柄を読み取るほどにちゃんと読んでいてくれたんだとわかって、驚きと嬉しさで混乱する。
本当に、あかりさんは僕を僕として好きになってくれていたなんて。
「……普通に考えて、無理ですよ。一般人で、ファンで、オメガなんて絶対あかりさんに迷惑がかかります。だから僕は首輪を返して……」
「迷惑だなんて思わない」
だからと言ってそれじゃあなんてその手を受け取れない。
立場の違いもあるし、僕は良くても一般的にアイドルの恋愛はスキャンダルになる。それはつまりスオウとメグスクに迷惑がかかる。
僕がここでもらった首輪を返して話を終わらせれば、この件に関してあかりさんが問題に巻き込まれることはなくなる。そう、思うのに。
「本当に一目惚れなんだ。そのうち、いつも手紙をくれていた子だと気づいて、もっと好きになった。手紙にはずっと励まされていたし、よく見てるなって感心してた。こうして会うようになって本当の泉を知って、どうしても番になりたくなった。俺のファンだと言って、誰かのものになるのが嫌だ。全部俺のものがいい。俺のものにしたい。泉の全部の『好き』が欲しい」
あかりさんは手を離さず、より一層熱のこもった告白をくれる。
それはいっそ子供っぽい独占欲だ。
解釈違いも甚だしい。
僕の好きなスオウはこんなことに必死になったりしない。独占欲とか、そういうものとは無縁で飄々と我が道を行く人で。
「返事は?」
こんな風に答えを急かしたりもしない。
「ファンとしての目線でしか俺のこと見られない?」
「……僕はスオウのファンです」
「なにかのファンになるっていう気持ちと恋愛の気持ちは違うのかもしれない。でも、その『好き』の気持ちを俺に向けてもらうことはできないだろうか」
スオウと恋愛するなんて発想、僕にはない。だってスオウはみんなのアイドルで、そういう対象じゃない。だから万が一ヒートの時によこしまな思いを向けないようにポスターだって飾っていない。
でも好きな人が好きな気持ちを欲していて、好きは好きに違いなくて。
「試してくれないか。俺と、恋愛できるか」
あかりさんから向けられる必死な熱でくらくらする。まるで強いお酒に酔っているみたい。
いや、そもそも普通に酔っているんだった。メグスクが揃ったり、色んな暴露をされたりで忘れていたけれど、今急激にその酔いが戻ってきた気がする。
ぐるぐる目の前が回る。
だから難しいことなんて考えられない。
真剣なあかりさんの顔しか見えない。
「やっぱり、スオウはダメ」
「泉……」
やっぱりそこは、ファンだから。
近づく僕の大好きな顔を押し留め、大きく息を吸う。
程よい酩酊感と高揚感は、普段なら絶対言えないことを、口を滑らせるのにちょうどいい。
「スオウはダメ。あかりさんがいい」
こちらから抱きついて、難しく考えるのをやめた。
次に与えられたキスはセクシャルすぎて、とてもじゃないけどアイドルとは思えず、それがなんだか無性に愛おしかった。
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